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5月1日 GLP-1/GIP アゴニストをPPARアゴニストと結合させてパワーアップする(4月29日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月1日
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GLP-1/GIPアゴニストの、体重減少と代謝改善効果については、このブログで何度も紹介してきた。このアゴニストに反応する受容体は、主に消化管、膵島細胞、そして脳に発現しており、消化の調節、膵島でのインシュリン分泌促進、脳の食欲調節等を通して、代謝全体を改善し、糖尿病は言うに及ばず、肥満、代謝性肝障害など多くの疾患治療の決定打となっている。受容体を発現していない脂肪細胞で脂肪が燃え、炎症が低下することで、インシュリン感受性も改善されるのを見ると、インシュリン分泌はもとより、食欲調節の重要性を実感する。一方で、インシュリン感受性を高める重要な経路としてPPARがこれまで研究され、例えばPPARγアゴニストのピオグリタゾンはその代表と言える。PPARδに対する治療薬は代謝性の肝疾患にも使われる。

今日紹介するドイツ・ミュンヘンにあるヘルムホルツセンターからの論文は、GLP-1/GIP受容体アゴニストにPPARα/γ/δの全てを活性化する化合物を直接結合させることで驚くべき抗肥満作用が得られることを示した研究で、4月19日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「GLP-1R–GIPR–PPARα/γ/δ quintuple agonism corrects obesity and diabetes in mice(GLP-1R-GIPR-PPARα/γ/δの5種類分子を標的にしたアゴニストはマウスの糖尿病と肥満を改善する)」だ。もちろん共同著者の中にはノボノルディスクのグループも入っており、抗肥満薬研究競争の熾烈さを実感する。

このグループは、現在最も使われるGLP-1/GIP受容体に結合するペプチドにPPARα/γを活性化する薬剤を結合させた化合物の研究を行っていたが、この研究ではδも加えてPPARα/γ/δの全てを活性化するLanifibranor (Lan) をGLP-1/GIP受容体の両方に作用するペプチド(GLIと略す)に結合させた薬剤(GLI-Lanと省略する)を合成し、Lanを結合させないGLP-1/GIP受容体作動ペプチドと比べている。

すなわち、通常ならPPARを発現するあらゆる細胞に効くLanを、GLP-1/GIP受容体を発現する細胞だけで作用するように変えている。当然肝臓や脂肪細胞には直接作用しない。ところが、GLI-LanはGLIと比べると、餌の摂取がさらに強く抑えられ、2週間目の体重抑制効果がGLIの10%減から30%減へと大きな効果が示された。脂肪以外のLean Massの減少もあるがともかく脂肪組織の減少が圧倒的だ。

治療薬開発という点ではめでたしめでたしだが、実際には不思議な点が多い。元々Lanは脂肪組織や肝臓などで働くことを期待して開発されている。をれをGLIと結合させると、この受容体を発現している細胞だけにしかLanの効果が得られなくなる。それにもかかわらずGLIの受容体を発現していない肝臓や筋肉でGLIと比べてGLI-Lanは10倍以上の遺伝子発現の違いが見られる。様々な臓器での遺伝子発現の変化を見ると、GLI-Lanがインシュリン感受性を大きく改善し、自然炎症を抑えることでこの効果が得られていることがわかる。また、この効果はGLIとLanを別々に投与することでは見られないことから、本来我々がPPARアゴニストに期待していた効果とはちがう。

ここまで効果があると副作用が心配になるが、45日間の投与実験では肝機能障害など特別な問題は出ていない。さらに痩せたマウスに投与する実験では、体重減少や低血糖発作などは見られない。即ち代謝異常が起こっているマウスにだけ効果がある。

GLP-1受容体やGIP受容体を神経細胞でノックアウトしたマウスでGLI-Lanの効果を調べると、食欲抑制効果や体重抑制効果が減少する。それぞれの受容体単独なので、GLIの効果は受容体同士で代償し合って維持されている。従って、ネットの効果は、LanのGLI受容体神経細胞への取り込みが低下するためと考えられる。以上の結果から、GLI-Lanは主に神経系への作用を介して、この驚くべき効果を発揮していることになる。逆に、本来GLIの受容体を発現していない脂肪細胞にGIP受容体を強制発現させ、脂肪内でPPARを活性化させる実験を行っている。受容体が脂肪細胞で発現すると、GLIも正常マウスより体重抑制効果が高まるが、Lanが結合されても、それほど大きな差にはならない。この様な実験の解釈はこれからの問題だろう。最後にこのシステムの標的になる脳でGLIとGLI-Lanによる遺伝子発現の効果を見ると、脳幹や視床下部でLanが結合することで大きな変化が起こっていることがわかる。

結果は以上で、GLIに反応する脳細胞にPPAR活性化が加わると、これまでGLIで可能になった以上の代謝改善と体重減少を誘導することが出来、マウスレベルでは副作用がないとすると、臨床へ移行するのはかなり早そうだ。ただそれ以上に、脳でのPPAR活性化により何が起こっているのかは、新しい概念へつながる予感がする。しかしどこまでやせ薬開発競争は続くのか?

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