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5月4日 生命に必要なアミノ酸の数を減らすチャレンジ(4月30日 Science 掲載論文)

2026年5月4日
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RNAワールドが、まだよくわからないきっかけでコドンとアミノ酸のシンボル的関係を成立させたまさに新たな情報言語誕生によって最初の生物が生まれ、この時出来た生命のルールは38億年たった今も守られ続けている。この変わらないルールの一つが、使うアミノ酸の種類が20種類に限定されているという点だ。実際には地球上には500種類のアミノ酸が存在しており、調べていくと21番目、22番目のアミノ酸を使う希な生物も存在する。逆に、生命誕生時にはもっと少ないアミノ酸しか使わず、これが進化とともに徐々に拡大して現在の20種類になったと考えられる。

とすると、もっと少ないアミノ酸で構成される生命を設計することが可能で、今日紹介するコロンビア大学からの論文は、その第一歩としてイソロイシンを全く必要としないタンパク質とRNAだけで出来たリボゾームを持つ大腸菌の設計に成功したという、まさにワクワクする話だ。タイトルは「Toward life with a 19–amino acid alphabet through generative artificial intelligence design(生成AIデザインを使って構成する19種類のアミノ酸アルファベットだけを使う生命へ向けて)」だ。

これまで Evo、ESM、AlphaFold 等など多くの生物情報を用いる生成AIを紹介してきたが、この論文はこれらを使った新しい合成生物学の方向性を示す素晴らしい論文だと思う。Questionは明瞭で、20種類ではなく19種類のアミノ酸で維持できる生命をデザインできるかだ。

このために、まずどのアミノ酸を省くかを決める必要がある。使われる頻度が少なく、また同じ機能の分子の場合、進化的に保存される度合いが低いアミノ酸を探索し、最終的にイソロイシンを選び出している。

もちろん最終目標は全くイソロイシンなしに生きられるバクテリアの設計だが、大腸菌には4639種類の遺伝子が存在し、生目に必須のアミノ酸だけでも398種類存在する。そこで、今回はリボゾームを構成するタンパク質だけでイソロイシンを使わない設計が可能か調べている。

まずイソロイシンに物理化学的に近いバリンやリジンに変えたタンパク質で大腸菌が生存するか調べると、4割ぐらいが問題なく置き換えられるが、残りは生存が出来ない。従来なら、一つ一つ他のアミノ酸に変えて調べるところだが、これには途方もない時間がかかる。そこで登場するのが、地球上のゲノムを学習し、進化のコンテクストに基づいて新しいゲノムを生成できる ESN2 や MSATransformer 、さらに構造からアミノ酸配列を生成できる ProteinMPNN の生成AIだ。

これら生成AIを用いてイソロイシンをマスクして、新しいタンパク質を設計させたときに出てきたアミノ酸に置き換えて、大腸菌のゲノムを変えていくという作業を行っている。これだけでも大変だとは思うが、従来のように全てのサイトをランダムに置き換えるのと比べると、一つの論文にまとまると言うところまで作業量が減り、生成AIの威力を思いしる。おもしろいのは、ESM2 や MSATransformer のように進化コンテクストを元に生成する場合はよく似たアミノ酸が出てくるが、構造ベースの ProteinMPNN を用いると結構違ったアミノ酸が指示されてくる。これは、それぞれが学習したコンテクストが少し異なっていることを示しており、両方を合わせて使うことで、さらに効率が上がっている。

また、イソロイシンの部位だけをマスクしたて生成AIにインプットしたのではうまくいかないときは、前後を広くマスクして設計している。最終的に3タンパク質を除いて、イソロイシンを使わないタンパク質の設計に成功している。

残念ながら残ったタンパク質は、ランダムに置き換え機能を調べる方法で最終的にイソロイシンを他のアミノ酸に変えた設計にして、全てのリボゾーム遺伝子を変化させている。

今後他の遺伝子を変えていくとき、大腸菌で問題になるのは一つのシステムを構成する遺伝子がまとまって存在するオペロンを形成している点で、オペロン全体を設計する方法の開発も 30 Sリボゾームを形成するオペロンを例にチャレンジしている。そして、二つの遺伝子がオーバーラップして存在するなどいくつかの問題が存在するが、解決可能であることを示している。

こうして設計されたリボゾームタンパク質で全くイソロイシンが使われていない大腸菌は、遺伝子を変化させることなく450代継代が可能である事を示している。

結果は以上で、次の段階でイソロイシンの必要のない大腸菌を設計していると思うが、タンパク質の設計AIが、そのまま生命の新しいデザインにつながることを示す、ワクワクする話だ。

  1. okazaki yoshihisa より:

    Evo, ESM, AlphaFold等など多くの生物情報を用いる生成AIを紹介してきたが、この論文はこれらを使った新しい合成生物学の方向性を示す素晴らしい論文だ。
    Questionは明瞭で、20種類ではなく19種類のアミノ酸で維持できる生命をデザインできるかだ!
    imp.
    人工知能の進展で、地球炭素型生命体を設計可能な時代が到来!

  2. Taro Yamada より:

    興味深い記事のご紹介をありがとうございます。

    イソロイシンをコードするAUU, AUC, AUAコドンのうち、AUAコドンは認識tRNAの成熟にリジン修飾が要り、リボソームによる読み取り効率が非常に悪い(他のアミン酸をコードするコドンと比べて最悪)ことで知られます。このようなコドンは非最適コドンとして分類されますが、それがなぜ現生生物に残っているのか——翻訳速度を下げることで、ペプチド鎖の折りたたみを促進するなど——少し不思議です。遺伝子をすべて最適コドンで置換した大腸菌が果たして生存できるのか、できないならどの遺伝子がネックとなるのか、に個人的な興味があります。

    1. nishikawa より:

      もちろんこの研究ではまだ出来ていないですが、tRNAの再構成も含めて将来を議論しています。今のところは、他の大半の遺伝子にはイソロイシンが使われています。例えば理論的に不可能という理論があればおもしろくなります。

  3. Taro Yamada より:

    うっかりしたコメントを失礼しました。

    イソロイシンのない大腸菌には、イソロイシンコドンもイソロイシン飢餓もありません。上記はすべて、レアコドンのAUAコドンのみを最適なイソロイシンコドンに置換したものとお読み替え下さい。

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