私の年になると、誰でもボケないで長く生きたいと望む。実際、認知症は高齢化日本の最重要課題で、研究にも多くの助成が行われている。ただ、これまで目にする研究は、アルツハイマー病を始めとする認知症、即ちボケた人を研究して、ボケの原因を探るものだった。今日紹介するシカゴ・ノースウェスタン大学からの論文は、この逆で、高齢になってもボケない人を集め追跡してボケない原因を探るコホート研究で、1月28日号のThe Journal of Neuroscienceに掲載された。タイトルは「Morphometric and histologyic substrates of cingulated integritiy in elders with exceptional memory capacity(記憶力の格段に優れた高齢者に見られる帯状束の形態的、組織学的状態)」だ。この研究では80歳以上の高齢者に認知テストを行い、成績が50−65歳までの平均より優れた人を選び出し、その方々をSuperAger(スーパーお年寄り)と名付けて追跡している。このスーパーお年寄りは、普通のお年寄りと比べて記憶力はスーパーだが、他の検査では特に変わりはない。これまでの研究で、こうして選ばれた人たちがMRI検査で皮質の萎縮が少ない、特に前帯状皮質と呼ばれる部分の厚さが中年の平均よりもまだ優っていることがわかっていた。この研究では、追跡中に様々な原因で亡くなった5人の対象者の脳の解剖、組織所見を調べて、ボケないことの秘密を探っている。経過中に亡くなった際の原因は特にコントロールと比べて変わりがないが、5人とも女性ということは、この研究はスーパーおばあちゃんについての研究になる。さて結果だが、まず予想通りアルツハイマー病で増えるプラーク及び神経繊維の絡み(Neurofibrillary tangles)は、普通の高齢者と比べると極端に低い。即ち、神経変性が起こりにくい人たちであることがわかる。一方、正常神経細胞の数を調べてみると、それほど大きな差はない。変性細胞は痴呆のある方で1ミリ平方に100個ぐらいだが、全細胞はその150倍も存在する。従って、認知症のある方でも脳細胞全体が変性するというものでないことがわかる。では正常細胞数で、スーパーおばあちゃんだけに増えている細胞はないのか?注意深く調べてついに、von Economo神経細胞が普通の高齢者よりはっきりと増えていることを突き止めた。この細胞はウィーン大学のフォン・エコノモ博士により発見された樹状突起の少ない細胞で、この論文によると、エコノモ細胞が神経変性疾患で選択的に低下していることが最近わかって注目されている細胞のようだ。結果はこれだけで、ではなぜエコノモ細胞がスーパーおばあちゃんでは元気で、エコノモ細胞が元気だと変性細胞が少ないのかは全くわからない。研究でも、動脈硬化危険因子については調べているが、血管の状態などほとんど記載されていないので、今後行われる詳しい研究が待たれる。特に、ゲノムについても明らかになるだろう。現在遺伝子検査であなたはボケないとは言ってもらえない。遺伝子検査も心配ばかりさせず、良い点も伝えられるよう工夫するのが大事だろう。いずれにせよ、私自身は記憶力テストで、最初からスーパーお年寄りには入れてもらえないと思う。