自閉症スペクトラム (ASD) のメカニズム研究のために、様々な遺伝子変異マウスが使われる。これは、ASD発症に強く関わる遺伝子がゲノム解析からわかってきたためで、その機能を調べるためにはどうしても実験動物に頼らざるを得ない。ただ、マウスの結果を、どのように人間の結果に結びつけるのかは難しい問題だ。
今日紹介するイタリア Rovereto にあるイタリア技術研究所からの論文は、遺伝子変異を導入した20種類のASDモデルマウスの分類から始めて、同じ分類をヒトのASDに当てはめられないかという極めてユニークなアイデアで計画された研究で、5月15日 Nature Neuroscience に掲載された。タイトルは「Autism subtypes identified using cross-species functional connectivity analyses(種を超えた機能的結合解析から特定された自閉症のサブタイプ)」だ。
安静時の機能的MRI活動の同期性から脳各領域の結合性を調べることができるが、20種類のマウスの結合性をおそらく麻酔下でまず調べている。実際自由に研究できるマウスでわざわざ機能的MRIによる結合性を調べたことがこの研究のハイライトだ。そして期待通り、差が見つかる領域はそれぞれ異なっているが、コントロールと比べたときに明らかに結合性が低下しているモデルマウスと、逆に結合性が高まっているモデルマウスに分けられることがわかった。おそらくマウスの詳しい生理学では逆に見落とす気がする。ともかく人間と同じ方法で調べようと考えたのが素晴らしい。
それぞれのタイプのマウスに導入された変異遺伝子とともに、結合性が変化した領域での遺伝子発現の特徴から得られる分子ネットワーク解析から、結合性が低下したグループのほとんどは、シナプスや神経機能に関わる遺伝子群の発現が低下しており、一方結合性が高まったグループは、主に自然炎症に関わる遺伝子の発現が上昇していることを発見した。これまでこの二つの要因がASDに関わることは示唆されていたが、明確に領域間結合性の差として示せたことが重要だ。
次はこの結果を人間に移すことになるが、マウスで変化が見られた領域間を人間の脳にまずマッピングし、700人近い ASD- MRI 検査データについて、マウスから得られた領域間の結合性を調べ直している。こんなうまい話があるのかと思うほど、マウスでの結果はヒトに移すことが出来、ASDの患者さんを領域間の結合性が低下する変化が目立つグループと、逆に結合性が上昇するグループに分けることが出来、死後脳の各領域の転写を調べる研究から、結合性が低下する群ではやはり神経機能に関わる分子が低下し、逆に結合性が高まる群では炎症や免疫に関わる遺伝子の発現が上昇していることを明らかにしている。
このグループ分けと、症状との関わりをべると、重症度を測るCSS指標で炎症性遺伝子が発現し結合性が上昇しているグループの方が重症であるという弱い有意差が見られているが、症状との関わりまではまだまだギャップが大きいと思う。
以上が結果で、分子解析が容易なマウスから始めて、多様な人間のASDを調べるという発想はユニークで高く評価できると思う。もちろん機能的結合性がそのまま脳波や神経記録で見られる変化をそのまま反映するわけではない。実際、興奮神経と抑制神経のバランスをこの結果から想像するのは不可能だ。その意味で、この研究はスタートに過ぎないが、この方法論は期待できる。

結合性が低下したグループのほとんどは、シナプスや神経機能に関わる遺伝子群の発現が低下しており、一方結合性が高まったグループは、主に自然炎症に関わる遺伝子の発現が上昇していることを発見した。
Imp:
これまでこの二つの要因がASDに関わることは示唆されていたが、明確に領域間結合性の差として示せた!
遺伝子と機能を繋ぐ、気の遠くなるような試み。