我が国の深海探査は、有人探査船しんかい6500や無人探査機うらしまなど世界トップクラスだが、中国も1万メートルを超すマリアナ海溝潜水に成功するなど(https://jp.news.cn/2021-10/30/c_1310279269.htm)進歩が著しい。
今日紹介する香港中文大学と中国青島海洋科学技術センターからの論文は、深海に適応した大型甲殻類オオグソクムシのゲノムと機能ゲノムを調べた大変おもしろい研究で、6月5日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Deep-sea megafauna co-opts microbial energy metabolism genes to withstand ultra-long starvation(深海の大型動物相は細菌のエネルギー代謝遺伝子を超長期の飢餓に対応するため流用している)」だ。
ダイオオグソクムシは深海に住む時に50cmにもなる等脚類で、一度食べれば何年も飢餓に耐えることで有名だ。いつ食べ物にありつけるか予想がつかない深海で当然の適応だが、それにもかかわらずエネルギーが必要そうな大型に発達してしまう不思議が研究者を捉えてきた。
この研究では1000mの深海に住む平均23cmの大型ダイオオグソクムシB.Jamesi (BJ) と、系統的に近い浅い海に住む小型(9cm程度)のB.doederleini (BD) の全ゲノムをまず解読し、両者の形質比較と対応させることで、BJが深海へ適応した過程を機能ゲノミックスを用いて明らかにしようとしている。
形質的に見ると、1)大型になるとともに、胃を拡大させ食物の長期保存を可能にした、2)クエン酸回路やミトコンドリア酸化的リン酸化を中心に基礎代謝機能を低下させることが、何年も食べずに生存する適応を支えている。即ち、大型になることで活動範囲が広がり捕食のチャンスが高まるとともに、食べられるときに一度に食べて胃に蓄え、後は代謝を落として蓄えで生きるというわけだ。
これに対応するゲノム変化を見ると、例えばミトコンドリア呼吸チェーンに関わる遺伝子全体の数が減っている。おもしろいのは、胃の中で共生する細菌叢にも深海への適応とともに変化が見られ、まず炭水化物の代謝に関わるバクテリアはほとんど存在せず、脂肪を蓄える Firmicutes とともに、TCAサイクルを持たないクラミジアと共生することで、胃の中での脂肪合成を高めている。もちろんBJ自身の脂肪分解遺伝子も数を落として脂肪蓄積を支える。
この研究のハイライトは、このような適応を支えたのが、バクテリアから水平遺伝子伝搬されたND1遺伝子であるという発見だ。ND1は元々は NDAH dehydrogenase 遺伝種由来で、ダイオオグソクムシ進化の早い段階で導入され、その後それぞれの種で独自の進化を遂げている。代謝が正常なBDでは遺伝子の重複はほとんど起こっていないが、BJでは何回も重複を繰り返し、数が増えている。さらに、使われるコドンもバクテリアからBJ型に進化し、この結果翻訳効率が高まっている。さらに驚くのは、ヒストンコードを調べると、この遺伝子の発現は他の遺伝子と比べても最も高く維持されるように進化している。
ND1遺伝子が全体の代謝システムにどう組み込まれるのかは明確にされたわけではないが、ND1をゼブラフィッシュや線虫に導入する実験から、この遺伝子一つで低温での代謝リプログラムが可能になることを示している。詳しく紹介すると、ND1をゼブラフィッシュに導入して、通常の温度で飼育したあと飢餓にさらすと、予想に反して飢餓に弱い個体になる。ところが、18度という低温で飼育すると、今度は飢餓に強くなり餌を与えなくても10週間近く生存できるようになる。各代謝活性を調べると、ND1がミトコンドリアの代謝ネットワークを変化させてこれを可能にしていることもわかる。
以上が結果で、深海への適応で大型化し胃が大きくなるプロセスについては研究が必要だが、代謝に関しては通常の代謝がND1遺伝子で影響されることで、低温で飢餓に強い生物に転換したことがよくわかった。

このような適応を支えたのが、バクテリアから水平遺伝子伝搬されたND1遺伝子であるという発見
Imp:
水平遺伝子伝搬。ありますよね。。。
通常の代謝がND1遺伝子で影響されることで、低温で飢餓に強い生物に転換!