ネアンデルタール人は4万年前前後に滅亡したとされている。人類がヨーロッパに進出したのが4.5万年前前後なので、ホモサピエンス侵出5千年で滅びたことになる。この急速な滅亡を説明する様々な仮説が存在するが、気候変動と遺伝的多様性の現象が重要な背景にあるとされている。
今日紹介するドイツマックスプランク進化人類学研究所を中心とした国際チームからの論文は、ホモサピエンスのヨーロッパ進出時、ベルギー・マース川沿いに棲息していたネアンデルタール人のゲノムについて新しいゲノムも含めて検討し直し、滅亡の原因を探ろうとした研究で、6月24日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Genetic diversity of late Neanderthals in northwestern Europe(北西ヨーロッパの後期ネアンデルタール人の遺伝的多様性)」だ。
この研究の目的は、滅亡に近い時期のネアンデルタール人ゲノムを調べ、本当に多様性が失われていたのかを検証することにある。実際クロアチアで発見された4.5万年前のネアンデルタールを10万年以上前と比べると明確な多様性減少は認められていない。そこで、アンデルタール人がデュッセルドルフ郊外ネアンデルタールで発見されたのが1856年だが、今回解析された骨は19世紀にこの地域で発掘されたもので、洞窟で保存された骨と比べると、保存状態は良くない。
幸い、技術の方が進歩して、これまで不可能とされていたレベルのゲノムを解析できるようになり、この研究が始まっている。結果、22カバレージゲノム解読が出来た1例に加えて、解析可能なレベルのゲノム配列を多くの骨から得ている。結果だが、ネアンデルタール滅亡に関わる問題は後にして、いくつかおもしろい発見を列挙しておく。
- 以前からこの地域のネアンデルタール人では食人の痕跡が認められていたが、今回バラバラになっていた骨が、2体の同じ個人由来であることが確認され、食人が行われていたことを再確認している。
- これまで東ヨーロッパで発見されたネアンデルタール人は血縁関係のある骨が多く見つかっているが、この領域で発掘された骨は全く血縁関係がなかった。
- ミトコンドリア遺伝子から計算される系統樹から、9-7万年前に分岐してきたミトコンドリアを持つ女性由来で、広くヨーロッパに広がった大きなグループを代表していることがわかった。一方、Y染色体ではこのような絞りは出来ない。
- ネアンデルタール人で近親交雑が指摘されているが、このグループではその痕跡はない。
その上で、このグループの遺伝的多様性を様々な方法で検証し、これまでクロアチアのネアンデルタール人で示されていたように、北西ヨーロッパのネアンデルタール人も、10万年前の多様性とほぼ同程度に多様化していること、そして有害ゲノム領域は通常と同じように自然消去されることも確認している。即ち、北西ヨーロッパ内で広く交流のある大きなグループが形成され、遺伝的多様性も維持されていたと考えていい。
最後に、北西ヨーロッパでは新しくネアンデルタール人と現生人類の交雑があったとする証拠は全く認められず、例えば現生人類に同化することもなかったと言える。
以上の結果は、気候変動による全人口減少がおこり、小さなグループ内での血族交雑が繰り返される結果、遺伝的多様性が失われたことがネアンデルタール人の絶滅の背景にあるという考え方は、少なくとも全ゲノムレベルでは否定できる。もちろん、特定されていない小数の遺伝子の違いがネアンデルタールの絶滅と現生人類の生存を決めたと考えることも出来るが、ネアンデルタール人絶滅の謎は解決からはほど遠い。

今回バラバラになっていた骨が、2体の同じ個人由来であることが確認され、食人が行われていたことを再確認している。
imp.
こんな風習があったとは!
ゲノムで確認できるのも面白い。