AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 8月21日 少し変わったガン免疫の話(8月19日 Cell Reports 掲載論文)

8月21日 少し変わったガン免疫の話(8月19日 Cell Reports 掲載論文)

2026年8月21日
SNSシェア

今日はガンキラー細胞に関わるが、決して直球というわけではなく、変化球を投げられたような研究を2編紹介する。

まず最初は我が国の大阪大学、慶応大学、そして理研からの論文で、110歳を超える方の T細胞 から明らかになる、ユニークな CD4Tキラー細胞 についての研究で、8月19日 Cell Reports に掲載された。タイトルは「CD4 CTLs in supercentenarians: Signs of adaptive expansion in healthy aging(超百寿者に見られる CD4CTLs : 健康的老化に伴い上昇する証拠?)」だ。

この研究では70-100歳までのAグループ、100歳代のBグループ、そして110歳を超えるCグループに分け、末梢血の免疫細胞を調べる中で、通常見られることが少ない CD4陽性 の キラー細胞CD4CTL が100歳を超えると増加し、Cグループではなんと末梢血T細胞の20%に達することを発見する。

この CD4CTL の分化経路を確認した後、T細胞受容体 (TcR) を調べると、通常は起こらないはずの2種類の TcRβ や TcRα を発現した T細胞 の数が増加しており、また個人ごとに特定の TcRレパートリー が増加していることを発見する。また、TcRγを発現した CD4細胞 すら見つかる。血液で言うと一種のクローン増殖が起こったように見える。即ち特定の TcRクローン、それも通常は希なユニークなクローンが増加している。そこで、超百寿の人たちで見られた TcRレパートリー と同じ V遺伝子 の発現をデータベースで探すと、なんとガン患者さんについてのデータベースに記録されているレパートリーと一致した。すなわち、超百寿者ではガンの環境で刺激されたレパートリーが選択的にクローン増殖していることを示唆している。

超百寿者の血液を使った研究はここまでで、あとは CD4CTL が何かについて詳しく調べており、ガン組織でさまざまなサイトカインを発現し、炎症を通して、あるいは直接ガンやウイルス細胞、さらには老化細胞のサーベーランスに関わる可能性を示唆している。マスメディアにも多く紹介されており、「がんに対するキラー細胞が多いと長寿につながる」といった感じで紹介されているが、本当にクローン増殖を誘導した抗原が何かについては今後の研究が必要だ。しかし超高齢者から学ぶことは多い。

次はワシントン大学からの論文で、Il2β受容体特異的に操作した IL-2 をそのまま患者さんに投与するより、ビフィズス菌に発現させて静脈注射することで、ガン組織でキラー細胞を増殖させることができることを示した研究で、7月23日の Science Advances に掲載された。タイトルは「Engineered probiotic Bifidobacterium for tumor-targeted pancreatic cancer therapy(ビフィズス菌を膵臓がん治療用に操作する)」だ。

IL2Rβ に特異的に結合することで、エフェクターを増やし、Treg を減らすことができる スーパーIL-2 や IL-15 については何度も紹介してきたが、これまでの治験では毒性も残ったりで期待ほどの効果は上げていないらしい。そこで、ビフィズス菌にこの スーパーIL-2遺伝子 を入れてガン特異的に発現させるというアイデアが生まれた。

ビフィズス菌を腸に移植するというのはわかるが、静脈に注射してガン組織に選択的に移行するというのは想像していなかった。ただ、ビフィズス菌は嫌気性菌なので、ガン組織のような嫌気環境に選択的に移行する事が知られていたようだ。この研究でも、注射後様々な臓器を調べ、ガン組織にだけ選択的に残っていることを確認している。また、腫瘍組織でビフィズス菌は STING分子 を介して自然炎症を活性化し、分泌する スーパーIL-2 が CD8T細胞 の増殖を選択的に誘導することを示している。

ここで使われた膵臓ガンモデルは、ガン細胞を直接膵臓に注射するモデルで、出来れば自然発生型のモデルを使ってほしいと思ったが、このモデルに スーパーIL-2 を分泌するビフィズス菌を静脈注射すると、腫瘍の増殖を抑えることができ、ガン組織のエフェクター細胞の数が増える。ただそれほど高い効果というわけではないので最後にゲムシタビンとの併用、あるいは放射線との併用治療実験を行い、ビフィズス菌が治療効果を高めることを示している。

結果は以上で、ビフィズス菌を静脈注射しても大丈夫で、しかも嫌気的環境が形成されておれば腫瘍に蓄積することが出来ること自体がおもしろい。ただ示された IL-2 の効果はそれほど高くないので、他の遺伝子のキャリアーとして使った方が良さそうだ。

以上、変化球型キラー細胞研究2編でした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。