細胞死の中でも好中球で起こるNeutrophil Extracellular Trap(NET)はユニークなので、このブログでも何度も紹介してきた。具体的には、細胞死が誘導された白血球が脱凝縮したDNAをほとんど分解することなく細胞外に吐き出す現象を指す。この結果、吐き出されたクロマチンにより、炎症が局所化して長く続くことになる。誘導過程についてはよく研究されており、NETが誘導される前にヒストンのシトルリン化を誘導してクロマチンをほどけやすくする酵素や、クロマチンの分解を促進するNeutorophil Elastaseなどが核内に移行する厳密にプログラムされた現象であることがわかっている。
今日紹介する英国のクリック研究所からの論文はこのプログラムになんとDNA組み換えに関わるRAD51も関与することを明らかにした研究で8月20日号のScienceに掲載された。タイトルは「RAD51 stabilizes neutrophil extracellular traps to compartmentalize inflammation(RAD51はneutrophil extracellular trapを安定化させ炎症を限局化する)」だ。
おそらく白血球が吐き出したNETを眺めていて、活性化酸素で切断されたクロマチンが枝状にまとめられているのを見て、RAD51による一種の組み替えが起こっているのではと想像を巡らせたのだと思う。そこで白血球のNETを誘導すると、RADはneutrophil elastaseと同じように細胞質から核内に移り、その後DNAとともに組織へと吐き出されることがわかった。さらに、RAD51の阻害剤を加えると、NETの枝状の塊が緩くなり、DNA分解酵素の作用をうけやすくなる。即ち、NETが組織内で持続するために必須の分子であることを発見した。
NETは様々な刺激で起こるが、おもしろいのは刺激に応じてRAD51の誘導が変化することで、カンジダのフィラメントは誘導能力が高い。これにより、炎症の限局化程度が変化することが予想される。そこで、しっかりと限局するNETと緩いNETでの炎症状態を比べるため、RAD51を阻害して緩いNETを作って、様々な炎症性サイトカインを比較している。その結果、完全なNETの場合誘導されるIL-1βの発現が、RAD51阻害により緩んだNETでは大きく低下することがわかった。これは NETが炎症を増強していることを示すが、話はそう単純ではなく、通常ならIL-1βと同じように振る舞うIL-6は、RAD51阻害で逆に上昇する事がわかった。他のサイトカインを調べると、NETが緩むことで2型の炎症へとスウィッチすることが明らかになった。
この原因を探ると、NETが緩みDNA分解酵素の作用を受けやすくなると、切断されたDNAが血中に入り、これが単球のTLR4を介してIL-6等の炎症物質を誘導していることがわかった。実際、RAD51を阻害すると、血中のDNA量が上昇するし、また血中に単球が移行出来ないようにすると、IL-6は誘導されない。
以上の結果は、RAD51がNETの構造の安定度を調節する重要な因子で、この作用のチューニングにより炎症の様態が全く変化することを示している。最後にヒトのアスペルギールス感染症をこの視点から再検討しており、一般的にはある程度緩いNETが形成されている病気であることが示されている。最後に、この緩いNETにより活性化されたIL-6やエオタキシンを中心とする炎症が、重症の喘息の原因になっている可能性を示唆しRAD51も治療の対象になる可能性を示している。
RAD51は免疫グロブリン遺伝子の再構成に必須で、免疫学者には馴染みの分子だが、これが炎症の調節に関わるとは、以外性のあるおもしろい論文だった。

RAD51がNETの構造の安定度を調節する重要な因子で、この作用のチューニングにより炎症の様態が全く変化する!
imp.
免疫グロブリン遺伝子再構成分子が炎症に関与