シベリア、アルタイ山脈にあるデニソワ洞窟で発見された指の骨のDNA解析から存在が確認されたデニソーワ人については、最近急速に研究が進展しはじめた。これについては1年前最近のデニソーワ人研究について紹介したYouTubeを見ていただきたい(https://www.youtube.com/watch?v=ufKszL_o1SI)。ただ、この時点でも、チベット高原を中心にしたデニソーワ人の分布や、頭蓋から見られる解剖学的構造などが明らかになったが、生活を示す研究は、チベット高原の Baishiya 洞窟からでた動物の骨の加工の様子から、ヤギを中心に狩猟生活していたという以外は、生活の様子がわからなかった。
これに対し、今回発表された一つは蘭州大学を中心としたグループ及び北京の中国科学アカデミーを中心としたグループによる2編の論文は、石器とともに発見された一部ではあるが腕の橈骨を含むデニソーワ人と特定された骨の解析で、ようやく生活の様子がわかり始めたことを示す重要な研究だ。タイトルは、「Ancient proteins identify various Denisovan remains from Southwest China(古代タンパク質解析により中国東南部のデニソーワ遺物を特定した)」と、「Denisovans from southwestern China and their subsistence strategies(中国東南部のデニソーワ人の発見とその生活)」だ。
この研究の重要性の一つは、デニソーワ人が中国東南部で発見されたことだ。これにより、遺伝子が特にポリネシアの人たちに多く残っているデニソーワ人とホモサピエンスの交流についての研究が一段と加速する可能性がある。
雲南省にある扁蝠洞は地層学的に様々な情報が豊富な場所で、8万年から10万年にかけての地層から、仮想の17万年前の地層で骨と石器が見つかっており、当時の人類の生活を知ることの出来る格好の発掘現場になる。ただ、多くは骨や歯の断片なので、まずどの人類がこの洞窟で10万年近く棲息してきたのか調べる必要がある。最初の論文では、出土した64000もの哺乳動物の骨の中から、まず形態学的に人類と思われるものを最終的には22個選び、質量分析器による骨や歯に残るタンパク質解析を行っている。DNAが回収できないとき、コラーゲンなどのタンパク質の配列から種を同定できるが、今回参加しているグループは世界の中でもトップクラスの実力を示してきており、この結果今回発見された洞窟は、長期にわたってデニソーワ人が使ってきたことを明らかにしている。
さらに、今回デニソーワ人からも四肢の骨格の一つ橈骨が見つかり、これについて形態学的な比較も行い、現生人類とネアンデルタールの間に位置し、構造的には現生人類と直立原人に近いことを示している。ただ、この解析については今後さらに多くの骨格を調べる必要がある。
以上のように、まずこの洞窟の住人がデニソーワ人と特定されたので、もう一編の論文では、同時に出土した動物の骨、地層に残る当時の気候や環境、そして石器について解析が行われている。
有孔虫に残る酸素同位元素の違いから気候を判断する海洋酸素同位元素ステージから、解析されたデニソーワ人は地球が冷えた時代にこの洞窟に棲息していたことがわかる。周りの環境はほとんどが針葉樹林に囲まれているが、しかしさすがに南方で、様々な動物の骨が見つかっている。
また、調理などの加工の跡から推察される食用として用いられた動物は、バッファローなどの牛類、鹿類、更にはヤギやサイまで見つかっている。北のデニソーワ人洞窟ではヤギが中心だったことを考えると多様だ。また石器時代の古代人遺跡で見られる骨髄を取り出していた後も見られる。
そしてこの研究のハイライトは、石器が数多く見つかっている点で、石器を切り出すコアと呼ばれる部分から、切り出した石片、そして廃棄された破片まで数多く見つかっている。即ち、この洞窟で石器が作られていた。ただ、石器の様式としてはこれまで分類されているような例えばネアンデルタール人の Levallois テクノロジーの様式というより、環境に合わせたフレキシブルな方法が使われていたようだ。特に、切り出した石器をさらに加工するリタッチと呼ばれる過程が高々1回ぐらいしか行われていない。ただ、石器については他の領域や時代で比べる必要がある。
以上、かなりすっ飛ばして紹介したが、デニソーワ人が現生人類と交流したと考えられる南方で、現生人類が来るずっと以前からデニソーワ人が存在し、狩猟生活を行っていた遺跡の発見は大きい。事実中国全土にはまだどの人類が棲息していたのか特定できていない遺跡が数多くある事を考えると、まだまだおもしろい発見が続くと期待できる。
