CRISPR/Cas でノーベル賞を受賞した Doudna さんは、受賞後により活動が活性化した一人だと思う。同時に受賞した Charpantier さんと比べるとよくわかる。また活動の幅が広がり、基礎から応用まで、それも新鮮なアイデアで研究が続けられているのを見てただただ感心している。今日紹介する Doudna 研からの論文は基礎研究だが、その中に応用の目がちゃんと隠れていることがわかるおもしろい研究で、9月17日 Science に掲載された。タイトルは「A noncontiguous code for RNA-guided DNA recognition at the origin of CRISPR- Cas(RNAにガイドされたDNA認識の非連続的コードが CRISPR/Cas の起原に存在していた)」だ。
研究の目的は CRISPR/Cas システムの起原を探すことだ。DNAを切断する クラスII-CRISPR の Cas9 の起原はトランスポゾンの一つ TnsB である事が知られているが、より古いタイプのクラスI システムについてはよくわかっていない。それを調べるため、この研究ではクラスI システムの Cas5,6,7 に相同な遺伝子の探索から始めている。ところがDNA配列から似たものを探してもうまく見つからない。そこで、AlphFold2 ライブラリを用いて、構造的に似たタンパク質を探索する DALI-search と呼ばれる方法を用いて、最終的にファージウイルスにコードされている、Viral Interference Program Repeat (Vipr) と名付けた遺伝子ファミリーの特定に成功している。そして、ファージウイルス上で Vipr はそれと対になった Vap1遺伝子とセットで存在していることを発見する。系統樹から、Vpr は Cas5,6,7 の先祖で、それぞれ独自に進化していることも確認している。
次にこのウイルスを大腸菌に感染させ、大腸菌ゲノムに統合された後から転写されてくるRNAを調べると、Vipr と Vap1由来RNA の前後に特徴的な繰り返し配列が存在していることを突き止め、これこそが CIRSPRのRNA アレーに相当するのではと考え調べている。
以前紹介したように Doudna さんの研究室はいち早く様々なAIを取り入れて研究しているが、この繰り返し構造についても、一般的なゲノム比較では相当するファミリーが見つからないので、多くのゲノムをただ学習させた Evo2 に、似た配列を生成させる方法を用いて、GGT に任意の塩基が12回繰り返す構造を特定する。Evo2 に配列を生成させた点には本当に感心する。
その上で、この XX+1 という標的配列が、CRISPRのRNA ガイドの役割を演じていることを実験的に確かめている。即ち、GGT に続くXXには壊したい標的に対応する塩基対が来る。実際このウイルス側のリピートに対応するリピートを設計して壊したい遺伝子の上流に挿入すると、Vipr とリピートを持つ遺伝子により破壊される。
最後に、この Vipr システムがどのように働いているのかを探索し、最終的に感染した細菌に、他のウイルスが侵入してきたときにそれを破壊する目的で発達したシステムであることを発見する。おもしろいのは、それぞれの相手機対応するリピートを持つウイルス同士が一つの細菌を巡って競争までする点で、おもしろい。
結果は以上で、なんとウイルスなどに対応するクラス1 CRISPRの起原は、ウイルスにコードされており、しかもウイルス同士の競争の武器として使われていたというおもしろい話だ。ただ、このシナリオのために、DALIからAIまであらゆる可能性が駆使されているのに驚く。しかも、Vpr1はガイドに従って標的遺伝子を壊せるにもかかわらず、分子は小さいことから、将来の遺伝子編集にも使えるというおまけ付きだ。Doudna さんの次の論文が楽しみになる。

ウイルスなどに対応するクラス1 CRISPRの起原は、ウイルスにコードされており、しかもウイルス同士の競争の武器として使われていたというおもしろい話だ。
Vpr1はガイドに従って標的遺伝子を壊せるにもかかわらず、分子は小さいことから、将来の遺伝子編集にも使えるというおまけ付き!
Imp:
カルタヘナ法等の縛りで、実際に使える施設が限られそうなのが心配です。