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2月24日:進む脳の遺伝子発現カタログ(Scienceオンライン版掲載論文)

2015年2月24日
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一昨日、ヒト各組織や細胞のエピゲノム国際コンソーシアムから続々成果が出始め、Natureが特集号を組んでいることを紹介した。ただ、組織のエピゲノームに関しては、そのままでは解釈が難しいところがある。すなわち、組織といっても様々な細胞から構成されており、個々の細胞では当然エピゲノムが異なる。従って、組織レベルで集めれられたエピゲノムを解釈するためには、その組織に存在する個々の細胞のエピゲノム、あるいは遺伝子発現をカタログ化しておく必要がある。実際、様々な組織で個々の細胞の遺伝子発現カタログを作る研究が進んでいる。今日紹介するスウェーデン・カロリンスカ研究所からの論文は、脳で個別の遺伝子発現カタログを作成するためのパイロット研究で、Scienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Cell types in the mouse cortex and hippocampuss revealed by single-cell RNA-seq(単一細胞レベルで行うRNA配列決定によって明らかになるマウスの皮質と海馬の細胞の種類)」だ。この研究では大脳皮質と海馬に焦点を絞り、それぞれの組織を単一細胞に分解した後、マイクロフルイディックスと呼ばれるテクニックで単一細胞を採取、それぞれの細胞が発現しているRNAの量をイルミナシークエンサーを用いるRNA-seqで決定している。研究ではランダムに細胞を3000個集め、そのRNA発現を調べている。パイロット研究と位置付けたのは、あくまでこの研究目的がカタログを作るという点に絞っているためだ。詳細を全て省いてまとめると、この3000個の細胞は、遺伝子発現から区別できる47種類の細胞に分かれる。この中には血管内皮なども存在するが、ほとんどは神経やグリアだ。皮質神経細胞は7種類に分かれ、それぞれは存在する皮質の層を反映しているようだ。介在ニューロンはもっと多い、12種類に分別できる。アストロサイトは2種類、オリゴデンドロサイトは6種類に分けられるといった具合だ。この論文はこれ以上でも、以下でもない。リンネに始まるスウェーデン分類学の伝統を受け継いでいると言えるが、いずれにせよこれはカタログ作りの始まりだろう。この結果から考えると、おそらく脳内の細胞は100種類を超えるだろう。まずエピゲノム解析が進む同じ組織と対応させて個々の細胞の遺伝子発現カタログ作りが必要だ。そのあと、刺激を受け興奮した細胞と、静止したままの細胞など、同じ組織で調べることも重要だ。最後に様々な病気の組織から細胞を採取してカタログを作ることが重要だ。データを統合するということは、これほど大変なことだ。そして、統合が進めば進むだけ理解は進む。ヒトゲノムプロジェクトが益々拡大して進んでいることを実感する。

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