今日は前置きなしで論文紹介に進む。スタンフォード大学からの論文で、CRISPR/Cas遺伝子編集システムを、光や音でスイッチを入れられるようデザインし直したというおもしろい研究だ。論文の中でも、このような遺伝子編集システムは世界初と自慢している。タイトルは「Non-invasive control of gene editing in vivo by photoswitchable Cas12f and focused ultrasound(生体内の非侵襲的遺伝子編集を光でスイッチが入るCas12fおよび焦点を絞った超音波で実現する)」だ。
この研究は、以前東大の濡木さんたちが構造決定した最も小さなCas分子、Cas12f に着目した。これはホモ二量体で働くが、アデノ随伴ウイルス (AAV) にも十分収まる大きさで、局所で遺伝子編集するときに最適と言える。これをさらに小さくしたのが CasMINI で、通常のCas12の半分の大きさで機能することが2021年に報告されている。
この小さくてホモ二量体ではたらくことを利用して、これに Dronpa と呼ぶ、通常は互いに結合しているが、400nmの青い光が当たると離れる性質を持ったタンパク質を結合させ、光のないところでは Dronpa により CasMINI の機能がマスクされ、光が当たったときだけ dronpa が離れて CasMINI が活性化され遺伝子編集できるCasをデザインできるのではと着想した。
CasMINIとdoronpaをつなぐ最適なリンカーの長さ中心に様々な条件を検討し、ついに期待通り400nmの光が当たったときだけ活性化される psCasMINI をプロトタイプとして完成させた。
Cas MINIの働きでルシフェラーゼ遺伝子のストップカセットが切断されるレポーターを組み込んだマウスの筋肉に psCasMINI を AAV で導入してもルシフェラーゼ遺伝子は活性化されない。しかし、全身あるいは局所的に400nmの光に一日16時間4日間さらすと遺伝子導入した筋肉でルシフェラーゼの経口が観察できるようになる。
この研究がおもしろいのは、同じシステムを使って、今度は音で CasMINI を活性化できるようにした点だ。これには超音波の機械刺激が来ると400nmの光を発するナノ粒子を用いている。まず同じ psCASMINI をアデノウイルスで目的の組織に注射する。スイッチを入れる前に、このナノ粒子を静脈注射し、それが体内に流れている間に局所的に超音波を当てると、当てた場所でナノ粒子が光るため CasMINI が活性化して、ルシフェラーゼのストップカセットが外れルシフェラーゼが光るようになる。
ただ、光を直接当てる場合と比べると編集効率は低い。そこで CasMINI と Dronpa に変異を導入して、光が当たると、通常の CasMINI(光とは無関係に遺伝子を切断する)とほぼ同じ効率を示すps2CasMINIを完成させている。この方法を脳細胞の遺伝子編集に使えるか調べるため、ps2CasMINI を静脈注射している。静脈注射で脳に遺伝子を届けられるのかと驚くが、これにもあたらしい CAP.B10 と呼ばれる脳にも移行するAAVを用いて、なんと2-5割の脳細胞に ps2CasMINI を届けている。注射後14日目に、マウスを400nmの光で1日間刺激する、あるいはナノ粒子を静脈注射して超音波を照射すると、脳での遺伝子編集が可能であることを示している。400nmの光は脳経も通過するようで、かなり高い編集効率が得られている。また、超音波の場合改良前の psCasMINI ではほとんど編集が出来なかったが、新しい ps2CasMMIN では音による脳細胞の編集が可能になっている。
最後に、ルシフェラーゼのストップカセットを切断するモデル系ではなく、肝臓で合成されアミロイドーシスの原因にもなるトランスサイレチン遺伝子をノックアウトできるか調べている。結果は期待通りで、光でも、超音波でも血中のトランスサイレチン濃度を1/8に低下させることが出来ている。また肝臓細胞のゲノムを調べると、光で40%、音で30%の頻度で遺伝子の欠失が確認されている。
以上が結果で、光や音で遺伝子編集をオンにするおもしろい方法が開発された。どんな状況で使うのか考えてみると、例えばこれまで脳細胞の除去手術を行っていた focal epilepsy (局所性てんかん) などで、神経伝達に関わる分子をノックアウトする治療が可能になると思う。また、変異遺伝子をターゲットにしたガン治療にも遺伝子編集を使える可能性がある。道のりはまだまだだが、期待できる。しかし、Deisseroth の光遺伝学といい、この研究といいスタンフォード大学は光による遺伝子操作のトップを走っている。

1:psCASMINI をアデノウイルスで目的の組織に注射する。
2:スイッチを入れる前に、このナノ粒子を静脈注射し、それが体内に流れている間に局所的に超音波を当てる.
3:当てた場所でナノ粒子が光るため CasMINI が活性化して、ルシフェラーゼのストップカセットが外れルシフェラーゼが光る!
Imp:
ナノテクノロジーと超音波・光工学の融合領域には大きな可能性を感じる今日この頃です。