20年前と比べると、喘息や花粉症などのアレルギー疾患にかかっている患者さんの数は大きく増加しているはずだ。この間に日本人の遺伝子に大きな変化があったとは考えられないので、環境要因の影響が大きいと思われる。このような場合、まず環境によりエピジェネティックな状態が変化した可能性を考えることが普通になってきた。ただ免疫反応となると、例えば最近大騒ぎしているPM2.5や食生活の変化など、環境にある抗原自体が時代に応じて大きく変化するので、アレルギーにかかりやすさの原因をエピジェネティックスに求めることはあまり行われていなかったようだ。今日紹介するハーバード大学を始めとする国際チームからの論文は、アレルギーと診断され、IgEが高い患者さんの末梢血のDNAメチル化状態を調べた研究で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「A epigenome-wide association study of total serum immuneoglobulin E concentration(血清IgE濃度と相関するエピゲノムについての研究)」だ。研究自体はどの施設でも実施可能なエピゲノム検査を、IgEが高くアレルギーと診断されている患者さんの末梢血で行っている。その結果、アレルギー症状の主役好酸球の活性や、IgE産生に関わるとして知られていた遺伝子のメチル化状態が正常と比べて大きく変化しているのが検出された。ただ検査は全末梢血で行われており、実際この変化が好酸球で起こっているのかを調べるために、喘息患者さんをIgEの高い群、低い群にわけ、それぞれの患者さんの末梢血から好酸球を精製してメチル化状態を比べている。結果だが、調べた好酸球の活性に関わる6種類の遺伝子全てで、喘息患者さん特異的にメチル化の程度が低下している。さらに、IgEレベルが高くなるほどバラツキ無く低メチル化状態が続いていることがわかった。このうち3種類の遺伝子については、350人程の喘息患者さんの末梢血でメチル化状態を調べ、IgEレベルとの相関を調べると、逆相関が見られ、いわゆるアレルギーにかかりやすさの指標としてこれら遺伝子のメチル化状態を使えると結論している。結果はこれだけで、現象自体の重要性を評価して論文を掲載したのだと思う。実際のところ、この研究ではこのメチル化状態がアレルギーの原因か結果かもよくわからない。ただ、検査は簡単で、正常群ではもともと大きなばらつきがある。今後、最初にこの指標で分けて経過を調べるコホート研究が行われるだろう。最近たしかにアレルギーで困っているという話を耳にすることが多い。この研究をきっかけに、気の利いた答えを伝えられる日が来るのを期待している。