昨年8月15日、エボラウイルス感染による激烈な症状が、ウイルスVP21分子が、ホスト細胞のSTAT1分子の核移行の阻害することでおこることを示した、Cell Host Microb8月号に掲載された論文を紹介した。この論文を読んで、ウィルスの巧みな戦略にも感心したが、世界中で研究が急速に進んでいることにも驚いた。今日紹介するテキサス大学ガルベストン校からの論文は、ウイルスが細胞に感染する時の侵入経路についての研究だが、全く同じ印象受けた。論文のタイトルは「Two-pore channels control Ebola virus host cell entry and are drug targets for disease treatment (Two-pore channelsがエボラウイルスの細胞へ侵入を調節しており、治療の標的になる)」だ。タイトルにあるtwo-pore channelとは、TCP1,TCP2の膜タンパクにより形成されるカルシウムチャンネルで、NAADPとPIP2により活性化される膜タンパクだが、細胞表面ではなく、細胞内のエンドソームに存在し、カルシウムの細胞質内への移動に関わっている分子だ。このグループがエボラウイルスの感染を防ぐ薬剤をスクリーニングしていた時、その過程で不整脈に利用されているベラパミルや、ミモディピン、ディリテイアゼムなどのカルシウムチャンネル阻害剤がウイルスの侵入を抑制することに気がついた。中でも、植物由来のアルカロイド、テトランドリンが最も高い効果を示した。エボラウイルスが、マクロファージの食作用でエンドソームに取り込まれ、細胞内に侵入するというこれまでの知見を考え合わせ,エンドソームに取り込まれたウイルスが細胞質に侵入する段階で、Two-pore channelが働いているのではと気がついた。後は簡単で、TCP1,TCP2遺伝子をノックアウトしたマウスの細胞をつかって感染実験を行うと、結果は予想通りウイルスはエンドソームに取り込まれたまま細胞質に侵入できない。最後に、マウスに感染できるようにしたエボラウィルスを使ったエボラ発症実験を行うと、テトランドリンは病気発症を強く抑えることが確認できた。これらの結果から、エンドソームに取り込まれたウイルスが、エンドソーム膜と融合して中のウイルスゲノムをホストの細胞質に注入するとき、Two-pore channelの機能が必須で、この機能を抑制する薬剤がウイルス感染を防ぐと結論している。この研究により、ウイルスの感染経路がほぼ明らかになったこと、そして何よりも、高い効果を発揮し、すぐに臨床に使える薬剤が発見できたことは大きいと思う。いずれにせよ、今の医学の実力を感じる研究だった。