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8月27日Sciencenewsline記事:チェルノブイリの現在から判るフクシマの未来

2013年8月27日
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このサイトの記事は http://www.sciencenewsline.jp/biology/ で読めます。

実を言うと、このサイトで取り上げる科学報道記事のほとんどは、理化学研究所・社会知創成事業に属する浅川茂樹さんが毎朝送って来てくれる科学新聞記事のリストから取り上げている。本当に感謝している。ただ、いつも科学報道記事、特に論文になった研究の仕事がある訳ではない。昨日、今日とそんな日が続いた。このため、敢えて日本の報道がほとんど取り上げない記事を、前に述べたScienceNewsLineの日本語記事から拾う事にした。記事のタイトルは、「チェルノブイリの現在から判るフクシマの未来」と言うセンセーショナルな題だった。
   本題に入る前に、一つ発見した事を報告しておこう。前にScienceNewslineが、経済的にどう運営しているのか不思議だと語った。今回英語の記事をよく見てわかったのは、大学のプレス発表を集めていることだ。もちろんそのまま転載しているわけではない。自分のところで書き直している。いずれにせよ、大学のアウトリーチ活動とつながっている。もし専門知識を持った客観的な記事の書ける集団によるこのようなサイトが出来れば、読む方はそこを見れば全てわかって便利だろう。大学も科学に興味のあるより広い層にニュースを呼んでもらえる。この様なサイトが増えると、ある意味で新聞はいらなくなるかもしれない。報道の目指すべき事を深刻に考えるときが来ている。
   さて取り上げられる回数からみて、報道と、ネットの差が激しいのが福島原発事故についてだろう。福島については、実際ネットだけでなく、我が国の報道は外国の報道とも大きくトーンが違っている。典型的な例が、昨年琉球大学の檜山さん達が原発近くの蝶に遺伝的可能な異常が蓄積した事を発表したScience Reportの記事だろう。もちろんほとんどの日本のメディアは報告しなかった。多分科学的に正しいかどうかj自信がもてなかったのだろう。実際、私の友人、大阪大学の近藤滋君は、コントロールの取り方がおかしいと批判していたのを思い出す。しかし、私は事故の生物への影響を決めようとして、この論文だけ公開の議論を行う事自体が不毛だと思う。科学でどちらが正しいかを近視眼的に議論しても仕方がない。重要なことは、福島原発事故の近くの動植物についての長期的調査研究は、人間についての調査と同様に極めて重要であると言うことだ。一定の条件で、世界の研究者にこの領域を開放し、実際に何が起こっているのか科学的に検証する事で、将来に大きなデータを残すことが出来る。檜山さんが正しいかどうかなども、遺伝子配列を調べていけばより正確なことがわかる。しかし、今の文科省はそのような研究に助成金を出すだろうか?科学的でないと抹殺するのだけではよくない。問題があるかもしれないが、より積極的な研究を促進するために助成金を増やすべきだぐらいの事を文科省に提言するぐらいのセンスが報道にほしい。政策当局が臭い物にふたをするしか能がないとすると、二度と得られない大事な資料は失われていく。例えば福島で野生動植物のフィールドワークをする特別の研究班は編成されているのだろうか?多分ないのではと思う(間違っていたら是非指摘を)。例えば、檜山さんの疑問からスタートして、フィールドワークや動植物についての研究やそれに対する助成が行われているかどうか調べて公開するのも報道の役割だ。
  さて、Sciencenewslineの記事に戻ろう。これはチェルノビリで2011年から2012年に捕獲された1000羽以上の鳥を調べたアメリカサウスカロライナ大学のMousseauさんとMøllerさんの仕事で、PlosOneとMutation Reasearchに掲載されたばかりだ。Mutation Reasearchではアルビニズム(皮膚から色素が失われる)とガンの発生率について、PlosOneに掲載された仕事は放射線障害として知られる白内障の頻度を調べている。いずれも、様々な統計処理を行うと、チェルノビリで捕獲された鳥は上昇しているという結論だ。もちろん、論文はフィールドワークで、実際検出された異常が遺伝的かどうかはまだまだわからない。また、ゲノムなども調べられていない。このように、私もこの論文だけで結果が正しいかどうか判断できるとは思わない。とは言え、あら探しをヒステリックに行うのは愚の骨頂だ。アメリカの研究者がチェルノビリのフィールドワークを現在も続けていることに感心すべきではないだろうか。今東北メガバンクで事故の影響が心配される集団の大規模コホートが行われている。同じように、汚染地にずっと居続けている動植物を採取、様々なデータの蓄積、特に経時的なゲノム解析データの蓄積、および採集した動植物の掛け合わせ実験など、今しかできない基礎的研究をしっかり進めるべきだと思った。