Old soldiers never die, but fade awayは、トルーマンにより解任されたマッカーサーの引退演説の最後の言葉として有名で、日本語では「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」と訳されている。訳がマッカーサーの真意を伝えているかどうか議論になったようだが、neverはうまく訳せているとは思えない。本当は自分の功績を讃えるニュアンスもあるように思う。しかしどんなに功績があろうと、新旧が入れ替わることで社会も身体も若々しさを保てる。このことをマウスの老化防止という観点から示したのが今日紹介するメイヨークリニックからの論文でAging Cell4月号に掲載予定だ。タイトルは「The Achilles’ heel of senescent cells:from transcriptome to senolytic drugs(老化細胞のアキレス腱:トランスクリプトームから老化細胞死誘導剤)」だ。もともと放射線障害やDANN修復を研究していたグループだろうか?いずれにせよ、まず観念が先に来るスタイルの論文だ。このグループの観念とは、「老化による障害は、老化により機能低下した細胞を完全に除去できていないためにおこる」だ。これを示すために、まず10グレイの放射線を照射し老化を誘導した脂肪細胞や血管内皮細胞の遺伝子発現を調べ、生き残った細胞で細胞死を防止するプログラムが働いていることを確認している。次に、このプログラムに関わる分子の中から、その機能を抑制すると完全な細胞死を誘導できる分子を探索し、細胞死を促進する一方、増殖細胞には影響を持たない6種類の分子を特定する。その上で、これらの分子の機能を抑制する分子を探して、ダサチニブと呼ばれるリン酸化酵素阻害剤、および抗炎症作用が知られている天然に存在するビタミン用物質、クェルセチンが、それぞれ脂肪細胞、血管内皮細胞の細胞死を促進する化合物として特定された。あとは、試験管内でこれらの化合物が確かに老化細胞を選択的に殺すことを確認した後、最後にマウスに対する影響を調べている。まず2年齢のマウスの心血管機能への影響を調べ、ダサチニブ+クェルセチン一回投与で心機能が改善することを見出している。即ち、老化してもなお心臓に残っている細胞を除去することで循環機能が改善するわけだ。次に、片足に強い放射線障害を与えたマウスに一回だけ両剤を投与し7ヶ月後の運動機能を調べると、トレッドミル検査で運動機能の改善が著しい。最後に、DAN修復欠損のため老化が早まったマウスに両剤を毎週飲ませると、運動障害をはじめ様々な老化による障害の発生が抑制される。実際の寿命については言及されていないが、要するに健康寿命が伸びるという結果だ。著者たちが予想したように、老兵は殺したほうが身体にはいいという結果だ。アイデアは面白く、ガンや老化による機能低下治療の一つの可能性を示した貢献だと思う。しかし年寄りから見ると複雑な結果だ。自分の体についてのことだと考えると、なんとか老兵を殺して元気になりたいと思う。しかし、その結果社会から見ると老兵が元気になり、新陳代謝が進まないという矛盾を抱える。おそらく、Old soldiers will survive, but hide away.が座右の銘としていいかもしれない。