7月7日:単細胞プランクトンの眼(Natureオンライン版掲載論文)
2015年7月7日
単細胞プランクトンも眼点(eye spot)と呼ばれる光センサーを持っていて、種によっては太陽光を感じて慨日リズムを調整し、住む深さを変えることがあることは知っていた。しかしまさか単細胞プランクトンの中に、構造的に角膜、レンズ、そして網膜を備えた光を感じる器官を持つ者がいるなど想像もしなかった。今日紹介するカナダ、ブリティッシュコロンビア大学からの論文は渦鞭毛藻と呼ばれる仲間の単細胞プランクトンが持つオセロイドと呼ばれる光を感じる器官の形成に関する論文でNatureオンライン版に掲載された楽しい論文だ。著者として我が国の国立遺伝学研究所の早川さんという女性研究者も参加している。タイトルは「Eye-like ocelloids are built from different endosymbiotically acquired components (眼に似たオセロイドは異なる細胞内共生により獲得された構成要素からできている)」だ。写真を示せないのが残念だが、この論文は海外で大きく取り上げられたようでGoogleには単細胞プランクトンの眼、オセロイドの写真が溢れているので見て欲しい(例えばEurekAlert サイト参照: http://www.eurekalert.org/multimedia/pub/94600.php)。どうしてこれほど美しい器官が細胞の中に形成できるのか誰もが不思議に思う。これほど複雑な器官を、単純な眼点を基盤に一から作り上げることは大変だ。このグループは、ミトコンドリアや葉緑体など、元は細胞自体が由来の細胞内共生器官が変化してこの器官ができたのではないかと考えた。実際、葉緑体は光を感じて光合成を行うことから、十分可能性はある。これを証明するため、詳しい電子顕微鏡解析と、細胞中のオセロイドを単離してDNA解析を行ったのがこの仕事だ。まず遺伝子解析から紹介しよう。葉緑体やミトコンドリアは細胞内共生と呼ばれ、それぞれの機能を持った細菌が細胞中に取り込まれて共生するようになった器官で、細胞から独立した活動をしている。ただ渦鞭毛藻類は最初単細胞性紅藻由来の色素体(plastid)を持っていたが、その後様々なプランクトンから色素体を取り入れ、現在その多くは機能を失った器官として残っているという複雑な進化を辿っていることがわかっている。従って、オセロイドの由来は単純でない。周りの遺伝子が汚染しないようよく洗ったオセロイドのDNAの配列を調べると、予想通り色素体の光合成機能に関わる遺伝子の存在を確認した。すなわち、色素体が特殊に分化したものがオセロイドであることが分かった。最後に形態学的にオセロイドの構成要素と細胞内小器官との関係を調べると、まず網膜体は周りの色素体につながっていること、また角膜やレンズはミトコンドリアとつながっていることを発見した。これらの結果から、オセロイドは単独で進化したのではなく、色素を失った色素体が特別に分化しミトコンドリアや小胞体を巻き込んで形成される器官だと結論している。残念ながら、このプランクトンは培養ができないため、分裂過程でオセロイドも独自に分裂するのか(おそらく構造的には分裂は難しいように感じる)、あるいは新しく形成されるのかなどはよくわからない。葉緑体のチラコイド構造が光依存性に新たに形成されることを考えると、分裂時に新しいオセロイドができてもいいだろう。ではなぜ眼点のような単純な光センサーではダメなのかという疑問が湧くが、これについては他のプランクトンの出す蛍光を検出するためではないかと想像しているようだ。いずれにせよ、このプランクトンの培養が次の問題で、この技術が開発されれば楽しい世界が待っていると思う。今日は楽しい細胞内共生の話で七夕向きだと思って選んだ。