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7月8日:長期記憶を担うプリオン型分子(6月17日号Neuron掲載論文)

2015年7月8日
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エリック・カンデルといえば、アメフラシという海生軟体動物の反射を用いて、長期記憶が神経興奮により神経細胞自体が変化し新しいシナプスが形成されることによることを示し、ノーベル賞に輝いた脳科学者で、1929年生まれだからもう86歳になる。これまで論文を直接読んだ記憶はないが、彼の書いた総説で「記憶は神経細胞発生・分化だ」と書いてあったのに感心したおぼろげな記憶がある。今日紹介するのはそのコロンビア大学カンデル研究室からの論文で、長期の神経変化誘導にプリオン型の分子が関わることを示している。6月17日号のNeuronに掲載され、タイトルは「The persistence of hippocampal-based memory requires protein synthesis mediated by the prion-like protein CPEB3 (海馬を介する記憶の維持にはプリオン型タンパクCPEB3によるタンパク合成が必要)」だ。神経細胞刺激による細胞分化が誘導され、シナプス形成が変化すると言っても、ホルモンやサイトカインのシグナルと比べると、神経刺激は刺激時間が短い。そのため、短い刺激を持続型の細胞変化に変える仕組みが必要になる。カンデルたちは、これを細胞内で重合し分解されにくいというプリオン型のタンパクが担っているとにらんでいたようだ。すなわち、短い刺激で誘導されると、すぐプリオンのように重合化して分解されない形態に変化する性質は、長期に遺伝子発現を維持することができる転写因子としてうってつけの性質だと考えて、候補分子を探し、CPEB3に行き着いたと思われる。この研究では、この考えが正しいかどうかを検証している。結果をまとめると、1)長期記憶が成立するとCPEB3が誘導され神経内で重合する、2)生後CPEB3遺伝子をノックアウトしてもほとんど神経症状はない、3)しかし記憶の固定は障害され、シナプスの長期増強が消失する、4)またこのマウスでは神経細胞のAMPA受容体遺伝子の発現誘導ができない。以上の結果から、神経刺激によりCPEB3が誘導され重合体を形成することで、長期間AMPA受容体を含む様々な分子の発現が維持され、それにより新しいシナプス形成が誘導されるという結果だ。最後に、CPEB3の重合に関わるN末を変化させ重合ができなくなった分子をノックアウトマウスに導入しても機能が回復しないことから、神経内で分子が重合することが機能に必須であることを示している。プリオンがなぜこの世に存在するのか、ポジティブな意味を考えることから思いついたシナリオをよくここまで実験的に証明したと、カンデルの執念に感心する。このまま信じていいのか、私には正しい評価をする知識がないが、もし本当ならプリオン型タンパクは転写を持続させるため欠かすことのできないメカニズムで、プリオン病はその負の側面を見ているということになる。そしてプリオン病の伝搬から考えると、一個の神経細胞内で形成されたCPEB3重合分子がシナプスを超えて新しい神経にゆっくりと伝搬するかもしれない。おそらくカンデルもそこまで研究を進めていくような気がする。

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