7月11日:糞を通して知るアフリカ草食動物の共存戦略(6月30日号米国アカデミー紀要掲載論文)
2015年7月11日
一度アフリカに行って動物を現場で見てみたいと思っているが、まだ果たせていない。もちろんサファリツァーのハイライトといえば、ライオンなどの肉食獣だろうが、やはり野生でないと実感できないだろうと思うのが草食動物の多様性と数の多さだろう。さて、今日紹介するプリンストン大学とスミソニアン研究所からの論文は多くの数の多様な草食動物の共存を支える食性についての研究で、6月30日号の米国アカデミー紀要に掲載された。タイトルは「DNA metabarcoding illuminates dietary niche partitioning by African large hervivores (DNAバーコードを用いたメタ分析はアフリカの大型草食動物の食物ニッチの分割を明らかにする)」だ。この研究の目的は、アフリカの大型草食動物同士が食物をめぐる競争をどう回避しているのかを明らかにすることだ。この目的で、ケニアにあるMpala研究センター内の草食動物の食性を2013年6月から7月にかけて調べている。これまでの研究と大きく違う点は、それぞれの動物の食性を糞の中に含まれるDNAを用いて調べている点で、この研究のハイライトはこの方法に尽きる。これまで私たちの腸内細菌叢を大便から抽出したDNAの中の16SリボゾームRNA遺伝子を指標に調べる研究が急速に進んでいることを何回も紹介した。ただこれは腸内で生きて活動している細菌のDNAの話で、食べた植物のDNAとなると話は別だ。消化や腸内細菌の作用を受けてDNAは他の分子共々分解される。このグループは、この難しい条件でも植物共通に存在する葉緑体のトランスファーRNAの一つをコードする葉緑体ゲノム遺伝子が腸内での分解に耐えて糞の中に検出できることを見出した。この研究はこの方法が全てで、あとは一定の区域で、2種類のシマウマ、バッファファロー、家畜、ゾウ、インパラ、アンテロープの一種ディクディクを追いかけ、排出されたばかりの糞便を採取、DNAを分析してどの植物を食べているかを調べている。おそらく大変な仕事だろうが、それでも毎日楽しくやれる研究だろう。この方法だと、どの植物を餌にしているかはっきりと特定できる。この研究からわかった面白い結果を次に列挙しておく。
1) シマウマ、バッファロー、インパラ、ゾウ、ディクディクの順序で、完全に草だけを食べる動物から、潅木や葉っぱなど雑食性の動物まで連続的に食性が変化しているのを確認できる。
2) 草食性の中ではシマウマが食べる植物のレパートリーが少ない。
3) アフリカのサバンナで草食性の動物が最もよく食べるのが、イネ科の植物で、一方雑食性の動物はマメ科が多い。私たちもあまり変わらない。
4) それぞれの動物の餌は重なっているが、食べる植物種の種類の多様性と割合は明らかに異なっており、それぞれが違う食性を持つことが同じ場所の共存を可能にしている。
要するに、それぞれが食性のニッチを持つことで、サバンナで共存しているという結論だ。もちろん、まだまだ落とし穴があるように思う。しかし古代人のゲノム研究を見ればわかるように、方法は確実に進化する。同じ手法を様々な動物に当てはめていくことで、野生動物の食性マップをより正確に知ることができる。これが絶滅危惧種の保護につながる可能性も高い。改めて次世代DNAシークエンサーが生物学全体を変えていることを思い知った。