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7月31日:ユーイング肉腫発症メカニズム(Nature Geneticsオンライン版掲載論文)

2015年7月31日
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腫瘍が遺伝子の変異を基盤に発症することはまず間違いないが、ゲノムに起こった変異が特定されても、なぜ腫瘍が発生するのかわからないケースも多い。聞きなれない方も多いと思うが、そんな腫瘍の一つがユーイング肉腫だ。間葉系幹細胞に起こる腫瘍ということで私もずっと興味を持っているが、EWSR1(ユーイング腫から遺伝子の名前が付けられている)とFlI1(他のETSファミリー遺伝子の場合もある)が転座によってキメラ遺伝子を形成することが原因変異として特定されている。また、マウスの線維芽細胞株にこの転座キメラ遺伝子を導入することで腫瘍が発症することから、このキメラ遺伝子に発がん性があることも確認されている。しかし、この遺伝子が発現するとなぜ異常増殖が始まるのかはよくわかっていない。特にこの腫瘍は、この転座遺伝子以外に明確な遺伝子変異がなく、それも研究を困難にしていた。今日紹介するフランス・キュリー研究所からの論文はこの問題解明へ大きな一歩となる研究でNature Geneticsオンライン版に掲載された。タイトルは「Chimeric EWSR1-FLI1 regulates the Ewing sarcoma susceptibility gene EGR2 via GGAA microsatellite (EWSR1-FLI1キメラ遺伝子はユーイング肉腫発症の感受性に関わるEGR2遺伝子をGGAAマイクロサテライトを介して調節する)」だ。ゲノム全体の変異を探索する研究から、EWSR1-FLI1遺伝子に加えて腫瘍発生の感受性を上昇させていると考えられる遺伝子部位がいくつか特定されていたが、この研究では細胞の増殖に関係ありそうな10番目の染色体にあるEGR2に狙いをつけている。この分子の発現をユーイング肉腫で調べると、発現が異常に亢進していることを発見した。この発現を抑えると、腫瘍の増殖は抑えられる。また、この分子を上流で制御している増殖因子のうち、FDF受容体がEGR2分子の発現に関わり、この腫瘍のドライバー遺伝子として働いていることを明らかにした。最後に、ではどうしてEGR2遺伝子の発現が上昇するのか、この領域のDNA配列を詳しく調べると、マイクロサテライトと呼ばれるGGAAの繰り返し配列が存在し、ユーウィング肉腫の患者さんでは、この中の配列が変化して2つのマイクロサテライトが結合して長いマイクロサテライト配列が新たに形成され、EWSR1-FLI1により誘導される遺伝子発現を大幅に亢進させ、発がんに至ることを突き止めている。これまで私は、EWSR1-FLI1キメラ遺伝子が発現すれば、多くの遺伝子の発現が上昇して、その結果腫瘍が発生するのかと単純に考えていた。しかしこの論文により、EWSR1-FLI1転座とともに、これに反応する側の遺伝子の変異が存在する必要があることが明確に示された。今後、同じようなマイクロサテライト変異が他の遺伝子領域に存在するか調べられ、他の治療可能性も探索されるだろう。長年興味を持ってこの病気についての論文を読んできたが、この論文のおかげでだいぶん整理がついた。

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