9月10日:生態学の使命(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)
2015年9月10日
今バイオマスで換算すると、人間・ペット・家畜は地球上の哺乳類全体の98%以上を占めるらしいが、ともかく地球の隅々まで人間が変えていることは間違いない。この状況を大きく戻す方向に舵を切ることはほぼ不可能に近いが、それでもこの状態を100%になるまで拡大していいとは誰も思わない。進行を遅らせるなり、少しは巻き戻すなりできればいいと考えるが、そのためには状況の正確な分析が必要だ。8月23日このホームページで人間の狩猟や釣りの様式が、野生の捕食の様式といかに違い、それが生態に大きく影響しているかを調べたScienceの論文を紹介したが、生態学が人間を含む動物圏全体を対象とする社会学であることがわかる。今日紹介するエール大学からの論文も生態学を人間の影響で評価しようとする論文で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Suburbanization, estrogen contamination and sex ratio in wild amphibian populations (郊外化とエストロゲン汚染の両生類の性比への影響)」だ。農薬や洗剤による土壌や水の汚染による影響のひとつに、排水に含まれるいわゆる環境ホルモンによって動物の性比が変化し、結果繁殖率が低下、最終的に絶滅に至る過程がある。これまでも様々な研究が行われてきたが、ほとんどが工業化などの大規模な開発の影響が中心だった。しかし、我が国のような国土の狭い国に限らず、ほとんどの国で住宅開発により、やはり環境は大きく変化している。著者らは郊外に住宅が進出することにより近隣の池など水辺がどのように変化するかを、カエルの性比と、水に含まれるエストロゲン作用を持つ環境ホルモンの分析により評価しようとしている。対象として住宅のまったくない森と、住宅が進出し、芝生などの植栽が植えられた地域を選び比較している。もちろん工場や農場などの大規模開発は行われていない地域が選ばれている。結果は予想通りで、住宅としての使用比率に比例してメスのカエルが増える。さらに、下水システムや家庭での水処理の仕方に応じて、池に流れ込むエストロゲン効果を持つ環境ホルモンの種類は異なるが、カエルの性比への影響は同じであることが明らかになった。すなわち、人間が住むことで、汚染の様態が極めて複雑化しているが、下水処理の方法に関わらず性比に影響が見られるのは、芝生など住宅に伴う栽培植物の影響が大きいと結論している。もちろん、疑われた化学物質の実際の効果については実験的に検証されたわけではなく、心配しすぎ、科学的エビデンスではないと反論される可能性は高い。しかし、同じことは我が国のゴルフ場が周りの環境に及ぼす影響として一時議論されたことがある。芝生も見た目はのどかに見えるが、やはり見ての通り多様性の欠如を象徴化している。さてどうするかだが、この研究では何も議論されていない。せっかく郊外に住むなら、自然の植物と暮らそうというのが結論だろう。この研究で調べられた被害者はカエルだが、実際には同じ影響は人間にも及ぶ。神戸大学の先生から聞いた話だが、今私たちの血液中の代謝物を調べようとしても、様々な化合物のピークに邪魔されて測定が難しいそうだ。戦後生まれの各世代の人口動態調査からこのことを思い知る時がすぐ来るような気がする。