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9月17日:非小細胞性肺がんの治療に標的薬を組み合わせる(9月号Nature Medicine掲載論文)

2015年9月17日
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ガンのゲノムを調べて異常増殖に関わる遺伝子を見つけ、それを標的として薬剤で叩くことで高い治療効果を得ようとするのがガンの分子標的治療だ。その最も成功した例が慢性骨髄性白血病に対するイマチニブ治療で、薬剤を服用し続ければほとんどの例で白血病をコントロールすることができるようになっている。ただガン遺伝子が続々明らかになり、それに対する分子標的薬が開発されてわかってきたことは、分子標的薬は最初著しい効果を示すものの、多くの場合時間が経つとガンが耐性を獲得して再発することだ。したがって、間違いなく寿命を伸ばすことができるが、現在の標的薬だけでは完全に治すのが難しいことだ。今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は非小細胞性肺腺ガンの治療耐性獲得機構を明らかにして根治治療法の開発を目指した研究でNature Medicine9月号に掲載された。タイトルは「Ras-MAPK dependence underlies a rational polytherapy strategy in EML4-ALK-positive ling cancer(EML4-ALK陽性の肺がんRas-MAPK依存性から帰結する標的薬併用治療)」だ。タイトルにあるEML4-ALK陽性肺ガンというのは、染色体転座によりできたキメラ遺伝子EML4-ALKが発ガンに関わっていることが、当時自治医大(現東大)の真野さんたちによって明らかにされた非小細胞性肺腺ガンだ。ファイザーにより開発されていたALKのリン酸化機能を抑制するクリゾチニブという分子標的薬が身体全体に転移していたガンをあっという間に縮小させるほどの効果を見て全員が分子標的薬の将来を確信した。しかし、治療を続けてわかったことは、ほとんどの例が薬剤耐性になること、また同じガン遺伝子を持っていても4割の患者さんには効果がほとんどないことがわかってきた。この研究ではまずクリゾチニブが抑制するEML4-ALKの下流でガンの増殖を駆動している3つのシグナル経路の内、どの経路がクリゾチニブ耐性になると再活性化されてくるかを調べ、多くのガンで活性化されるRas-MAPK経路の活性が上がっていることを発見する。次に、Ras-MAPKがEML4-ALKにより活性化されるメカニズムを調べ、1)ALKではなくEML領域でRas-MAPKが活性化されること、2)クリゾチニブ耐性ガンではRas遺伝子の増幅、あるいはこの経路のシグナルを抑制しているDUSP6脱リン酸化酵素の発現低下が見られることを明らかにした。すなわち、他のシグナル経路と比べた時、クリゾチニブではRas-MAPKが完全に抑制できないため、時間が経つとRas遺伝子が増幅や、DUSP6遺伝子の発現を低下させた耐性ガンが生まれてしまうというシナリオだ。もしそうなら、最初から先手を打って、クリゾチニブとともに、Ras-MAPK経路を抑制するMEK阻害剤を投与することで、全てのガンを殺すことができるのではないかと着想した。この仮説に基づき、マウスに肺ガンを移植して単独投与、2剤併用投与を比べると、クリゾチニブでは2ヶ月程度で耐性ガンが現れる一方、2剤併用では100日目でも全く再発がなかったという結果だ。MEK阻害剤はすでに臨床で使われており、この治療のヒトでの可能性の検証はすでに始まっていることだろう。期待が持てる。私にはこの研究はガン分子標的治療の新しい方法を示す画期的な研究に思える。これまで薬剤耐性ガンに対しては、耐性が出てから対応していた。しかしこの研究は、薬剤の標的分子の生化学を理解することで、耐性出現前に先回りして、耐性が起こりやすい経路を抑制することができることを示した。他の分子標的薬についても、同じ観点から再検討することで、分子標的薬を用いた根治が可能になると期待したい。
  1. Okazaki Yoshihisa より:

    ガン遺伝子解明→その異常蛋白に対する分子標的薬開発→分子標的薬は最初著しい効果を示すが、多くの場合時間が経つとガンが耐性を獲得して再発する
    例:
    キメラ遺伝子EML4-ALKリン酸化阻害剤:クリゾチニブ
    クリゾチニブ耐性ガンでは、Ras-MAPK経路が完全に抑制できないため薬剤効果がなくなる。

    →分子標的治療の効果upには、変異遺伝子情報だけでなく細胞内シグナル伝達パターン情報も必要そう。
    免疫療法でも効果upには、細胞内シグナル伝達パターン情報は必須そうです。

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