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10月4日:アミロイド形成は悪いことばかりではない(10月8日号Cell掲載論文)

2015年10月4日
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今年の7月「長期記憶を担うプリオン型分子」というタイトルで、ノーベル賞受賞脳科学者エリックカンデルの論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/3720)。CPEB3と呼ばれる分子が神経刺激でプリオン型重合物を形成し、長期間記憶を維持しているという発見で、恐ろしいプリオン的性質にも本当は生理学的機能があることを示した驚くべき論文だった。今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文もこれとよく似た内容で、Rim4と呼ばれるRNAからタンパク質への翻訳を調節する分子のアミロイドを形成能力が減数分裂に必須であることを示した研究で10月8日号のCellに掲載された。タイトルは「Regulated formation of amyloid-like translational repressor governs gametogenesis (調節された翻訳抑制分子のアミロイド様構造形成が配偶子形成を調節している)」だ。この研究の対象は、出芽酵母が飢餓に陥ったり、フェロモン刺激を受けたとき起こる減数分裂過程で、特に減数分裂調節の鍵となる過程の一つ、Rim4によるサイクリンBの転写抑制過程を解明した研究だ。減数分裂初期のサイクリンBの活性を抑えるのは、これまでRim4によるサイクリンBの翻訳抑制によることはわかっていたが、抑制のメカニズムは明らかでなかった。まず著者らはアミロイド様ファイバー形成分子が共通に持つ構造をRim4も持っており、減数分裂初期に細胞内で重合し、アミロイド様ファイバーを形成することを発見する。病気を引き起こすアミロイドファイバーと異なり、このアミロイドは減数分裂が次の段階に入ると分解できる。これにより、それまで抑制されていたサイクリンBを急速に細胞内で回復させることができる。次に、このアミロイド形成が減数分裂に必要かどうか調べるため、アミロイド形成に必要な領域を削った分子を作成してその作用を調べると、アミロイド形成能が落ちるとともに、翻訳の抑制活性も失われることが明らかになった。その他いくつかの実験から、1)Rim4が減数分裂刺激後アミロイド様ファイバーを形成する、2)この重合によりRim4に結合したサイクリンBのRNAが翻訳機構から隔離される、3)その結果減数分裂第1期にはサイクリンBの活性が抑えられる、という過程で減数分裂が進むことを示している、。最終的なメカニズムは不明だが、実際酵母を飢餓にさらすと、急速にRim4がアミロイド様ファイバーを形成する。その後第2期に入ると、この重合体は分解され、サイクリンBタンパクが作られ、細胞分裂が起こるというシナリオだ。減数分裂では、普通の分裂では並行して進む染色体の分離と細胞分裂を切り離して調節することが重要になるが、これをタンパクのアミロイド形成能を積極的利用してサイクリンRNAを隔離することで行うとは何と巧妙な方法かと驚く。まあ、これは酵母の話だからと思っていたら、最後に哺乳動物のDAZL分子も減数分裂時に重合物を形成する可能性があることを示している。新しいアイデアなので、おそらく様々な種の減数分裂過程で、同じような調節されたアミロイド形成が必要かどうか研究が進む予感がする。しかし、プリオンにしてもアミロイドにしても、人間側から見ると悪い話しか出てこないが、本当は生命にとって重要な機能として生まれてきた可能性が高い。思い込みを排し頭をフレキシブルに保つ必要を感じる今日この頃だ。

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