10月8日:内視鏡手術か開腹手術か?(10月6日号米国医師会雑誌JAMA掲載論文)
2015年10月8日
「傷が小さく回復が早い」を売り物に、内視鏡手術は様々な分野に浸透している。外科医としても腕の見せ所も多く、おそらくインセンティブの高い手術ではないだろうか。また、技術だけでなく、新しいアイデアに基づく機器開発への要求も大きく、イノベーションが目に見える分野として今も注目されている領域だ。ただ、どうしても不自由な中で手術を行うため、手術が完全だったかどうか、事故がないかは患者としては気になる。幸いこれまで多くの臨床研究が行われ、大腸・直腸ガンに関しては、成績の上では十分開腹手術に匹敵できることがわかっている。ただ手術の性格上、内視鏡にするか開腹にするかを完全に無作為化して両者を比較する様なことはなかなか行えないので、これまでの結果は患者さんを選ぶときバイアスがかかっているのではと指摘されてきた。今日紹介するテキサス・ベーラー大学を中心としたアメリカ・カナダからの論文はこの乱暴な(?)無作為化を行って両者を比べた臨床研究で10月6日号の米国医師会雑誌に掲載された。タイトルは「Effect of laparoscopic assisted resection vs open resection of stage II or III rectal cancer on pathologic outcomes.The randomized clinical trial(ステージII及びIIIの直腸ガンに対する腹腔鏡下摘出術と開腹摘出術を病理学的結果から比べる。無作為化臨床治験)」だ。
手術というと、誰にどうやってほしいか患者さんの希望もあるはずなのに、無作為化で術式を決める治験に同意する患者さんが500人近くもよくいたと感心する。もちろん、腹腔鏡下手術は熟練が必要なので、術者の能力を精査し、また手術はビデオで撮ってミスを犯していないか調べるという念の入れ様だ。患者さんはステージII,IIIで局所的には進行しているが転移はない直腸ガンに揃えている。もちろん手術だけでなく、化学療法や放射線を組み合わせて治療が行われている。この研究で調べたのは、手術による合併症の有無、そして切除した組織を精査して取り残しなく完璧な手術ができたかどうかを評価している。もちろん今回治験に参加した患者さんは今後も追跡されるはずで、将来長期生存率についての結果が出てくるだろう。結果だが、まず外科手術としては両者にまったく差がなく、腹腔鏡下手術も完成の域に達していることがわかる。ただ、手術にかかる時間は40分ほど腹腔鏡下手術の方が長くかかる。意外だったのは、入院期間も両者で差がないことで、腹腔鏡7.0日に対し、開腹7.3日という結果だ。これはステージの進んだ直腸ガンで、他の処置も行ったからかもしれない。この様に両者で差がないという結果を受けて、この論文の結論は、今回対象にしたステージの手術では腹腔鏡下手術は勧められないという結果だ。我が国ならどちらでもいいという話になるのかもしれないが、すでに行われている方法を凌駕しない限り伝統的な方法を選ぶという思想が感じられた。さて私ならどうするだが、もともと保守的な方で、この結果を読まなくとも、健康状態さえ良ければ開腹でやってもらいたいと思っている。ともあれ、乱暴と言われることを恐れずここまでやる外科魂には感服した。