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10月28日:肺炎球菌ワクチンに関する米国予防接種諮問委員会及び米国疾病予防管理センターからの勧告(10月26日号JAMA Internal Medicine掲載論文)

2015年10月28日
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我が国のメディアで盛んに肺炎球菌ワクチンの接種が呼びかけられている。私も適齢期なのでワクチンを受けようかなと調べていたところ、新しいPCV-13ワクチンについての米国予防接種諮問委員会(ACIP)の勧告に対する2つの意見が10月26日号のJAMA Internal Medicineに掲載されていたので紹介する。最初の意見は当のACIPからの意見で「Pnemococcal prevention gets older and wiser (肺炎球菌予防法は高齢者に合理的な方法で使える)」がタイトルだ。ここでは新しい勧告に至る経緯が述べられている。最初開発されたワクチンは、抗原となる様々なポリサッカライドを使ったPPSV-23で、公費補助が行われたためアメリカの6−7割の人が接種を受けた。ただ、免疫学的には予防効果は中程度で、特に年齢が進むほど効果がないことがわかっていた。それでも一貫してACIPは65歳以上の人たちにPPSV23とインフルエンザワクチンの併用投与を呼びかけている。そこにポリサッカライドに異種タンパクを結合させ免疫原性を高めたワクチンPCV-13がFDAにより認可される。これを受けてACIPはまずHIV患者など免疫の弱い人へのPCV-13接種を勧告する。そして、オランダで行われた85000人の65歳以上の人たちへの接種研究が、75%の肺炎に効果があり、45%の他の肺炎の予防効果もあるという結果を受けて、最終的にこれまでワクチンを受けたことのない人はまずPCV−13を接種、その後1年以上間をあけてPPSV23を接種、またすでにPPSV23接種を受けたことのある人はPCV-13一回を打つように勧告した。この意見では、この結果が昨年の肺炎流行時に効果を及ぼしたという研究を引用し、ワクチンの効果については2018年にもう一度見直すが、免疫誘導効果は十分なので、勧告通り接種を進めるという意見を述べている。  これに対しUCLAのグループは「Reconsidering guildines on the use of pneumococcal vaccines in adults 65 years or older (65歳以上の人への肺炎球菌ワクチン接種のガイドラインを再考する)」という意見を提出している。この意見では、PCV-13の効果について、これまでワクチン接種のないオランダ(我が国も同じ)での治験であり、すでに6割以上がPPSV23接種を受けているアメリカとは状況が異なること。またこの治験も4年というスパンで見ると予防効果はやはり中程度でしかないことを重視している。その上で、これまでの長い経験で米国では安価なPPSV23が十分効果を発揮し、全体の発症数を抑えるのに成功しており、わざわざPCV-13に変える必要はないという意見だ。PCV-13は150ドル、PPSV23は50ドルで、その差は大きい。ただ、UCLAのグループもワクチン接種には賛成で、接種を受けた人数を増やして、社会全体で肺炎球菌感染を減らすべきだとしている。   我が国で現在厚生労働省などが薦めているのは、PPSV23の接種だ。ただ突然一方的にメディアでワクチン接種を呼びかけるのではなく、現在得られるワクチンの情報、これまでの研究、ワクチンに対する様々な意見をなんらかの形で紹介することが重要だろう。ただ、米国と異なり我が国ではワクチン接種は始まったばかりだ。実際には、子供から大人までワクチン接種を進めることが前提であるにもかかわらず、65歳以上だけに必要であるかのような宣伝の仕方には疑問を感じる。多くのワクチンは個人だけの問題を超えて、社会の病気全体を減らす可能性があり、ワクチンの必要のない世界のために進めるという戦略性が必要だ。UCLAのグループも、肺炎球菌は若年層で最も維持されていることを強調している。またACIPの勧告ではPCV13を2回接種する代わりに、PCV-13接種の後12ヶ月以上開けてPPSV23を接種することを勧めている。これは副作用など幾つかの理由のあることで、我が国もこのプロトコルを受けられるのか,いつ認可されるのかはっきり示してほしい。おそらく我が国では自動的にPPSV23を繰り返すのではないだろうか。いずれにせよ、一貫したワクチン行政を進めるためにも、我が国も委員会形式でなく、議論がはっきり見えるACIPの様な機関が必要だろう。   さて私だが、PCV13のあとPPSV23というプロトコルが可能か調べて接種を受けるつもりだ。
  1. NANA より:

    今年も冬を目前にして、高齢者に向けて肺炎球菌ワクチン接種を呼びかけるテレビCMが盛んに流れています。

    さて、西川さんの記事で紹介されていたオランダの臨床試験

    https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1408544

    についてですが、論文によれば

    【肺炎球菌肺炎の発症数】

    プラセボ群:90人
    ワクチン群:49人

    となっており、たしかに記事で書かれているように高い発症予防効果が示されています。

    ただ、肺炎は免疫力・抵抗力で自然に治ったり、抗菌薬で治る人もいるので、試験の重要なエンドポイントと言える肺炎球菌肺炎による死亡数を見ると、

    【肺炎球菌肺炎による死亡数】

    プラセボ群:2人
    ワクチン群:2人

    となっており差がありません。
    さらに総死亡について見ると、

    【総死亡数】

    プラセボ群:3005人
    ワクチン群:3006人

    となっています。

    これら死亡についての試験結果を見れば、ワクチンの効果に対する印象や評価は、記事の論調とはかなり違ったものになるかと思います。

    何よりも指摘したいのは、西川さんの記事ではワクチンの重要アウトカムである死亡減少効果の有無について触れられていない点です。これでは、ワクチンついて十分な情報を伝えたものとは言えないでしょう。
    ワクチンの効果が読者に誇大視されかねないミスリードをはらんだ記事内容だと言えるのではないでしょうか。

    1. nishikawa より:

      重要な批判として掲載しておきます。

  2. NANA より:

    コメントの掲載ありがとうございます。

    オランダの臨床試験の論文について、長くなりますがもう少し突っ込んだ批評をコメントさせていただきたいと思います。

    ① 総死亡の論文での記載方法とその評価について。

    オランダの臨床試験は試験デザインとプロトコルが“Supplementary Appendix”として提供、公開されています。

    https://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa1408544/suppl_file/nejmoa1408544_appendix.pdf

    それによれば、総死亡(Death from all causes)がワクチンの効果の指標(Exploratory Efficacy Objectives)のひとつに設定されていましたが、論文の「Table 2. Vaccine Efficacy」には総死亡に関するデータが記載されていません。
    その一方で、ワクチンの安全性を纏めた「Table 3. Safty Outcomes」には、総死亡のデータが記載されています。
    このような選別的な記載方法は、恣意的でミスリードなものだと言わなければならないでしょう。

    高齢者を対象にした臨床試験では総死亡の絶対数が大きな数値(ワクチン群:3006人/プラセボ群:3005人)になります。それに比してワクチンの重大副作用としての死亡は相対的に非常に稀な事象ですから、両群の総死亡の比較によって副作用死リスクを検出するのは疫学統計的に妥当な方法とは言えません。
    にも関わらず、「Table 3.」のように、両群の総死数を単純に並列記載してしまうのは、「ワクチンには重大副作用としての死亡リスクがないと結論できる」かのような印象、誤解を与え兼ねないものになっています。

    そもそも総死亡のデータは、ワクチンの有効性を評価する上で、最も重要かつ信頼性の高い指標(エンドポイント)として位置づけられるべきものだと思います。
    何故、総死亡が重要なのか。それは、ワクチンに限らずあらゆる医療介入に求められているのは最終的には生命予後の改善効果だからです。ワクチンに標的感染症の抑止による死亡低減がある場合でも、副作用に起因する死亡リスクがそれを上回わって最終的な生命予後に対する効果がなくなれば、接種の意義が失われます。
    ワクチン接種のメリットとデメリットのバランス評価、つまり生命予後改善の評価を最も客観的、科学的に検証できる指標が総死亡だと言えます。

    肺炎発症をワクチン効果の指標(アウトカム)のひとつにすることに反対はしませんが、その場合には、原因菌の検査や同定そして臨床診断の過程などにおいて、様々なバイアスが介入する可能性を完全に排除することができない点に、十分な考慮と検証が必要であることを押さえなければなりません。

    総死亡の指標は、死亡原因を問う必要性もなく、生死の判定に誤認やバイアスが介在することもほぼありません。したがって、最もバイアスのない信頼性の高い指標と言えます。

    以上のことから、百万人単位の多くの健常者に接種することを想定しているワクチンについては、総死亡に対する効果を検討・検証できていない臨床研究の「エビデンス」は、十全なものとは言えないと思います。

    ②  両群の総死亡に差がなかったことについて。

    両群の総死亡(ワクチン群:3006人/プラセボ群:3005人)に有意な差がないという批判に対しては、専門家(例えば岩田健太郎氏)から「統計的に有意差がなかったということは偶然による結果の可能性があり、そのデータから「肺炎球菌ワクチンは無効」と判断することは出来ない」といった反論があります。
    しかしそれは逆に、科学的に真摯な観点に立てば、肺炎球菌ワクチンによる死亡低減効果について「証明できなかった」、「有効と判断することはできなかった」ということになります。

    より丁寧に言い換えれば、「3000人の高齢者が亡くなるうち、ワクチンの標的である肺炎球菌の肺炎で亡くなる人が2人程度。それをなんとか減らそうと、42000人もの人にワクチンを接種しても有意な死亡減少は見られなかった。」が肺炎球菌ワクチンは有効と結論した臨床試験の実態だと言えるでしょう。

    ③ 論文著者たちのCOI(利益相反)の問題について。

    まずオランダの臨床試験は、ワクチンメーカーであるファイザー社によってサポートされたものであることが明示されています。また、論文著者たちのCOIに関する情報が「Disclosure forms」として開示されています。

    https://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa1408544/suppl_file/nejmoa1408544_disclosures.pdf

    それらを見ると、論文の筆頭著者をはじめ多くの著者たちがファイザー社から何らかの利益供与を受けていることが分かります。また、論文には多くのファイザー社の社員も名を連ねています。このことは、当該研究論文のCOIには大きな問題があることを意味しています。

    たとえば、エビデンスの信頼性が国際的に高く評価されているコクランにおいては、レビュー対象の薬品のメーカーから何らかの利益供与を受けている研究者は、レビュー論文の著者にはなれないという原則ルールがあります。
    (ただ最近は、理事の除名騒動などを契機に、コクランの独立性や信頼性さらに商業主義的な傾向に対する批判の声が上がっていますが····)

    ④ 補足として論文に対する「Letters (to the editor)」について。

    論文が掲載されたNEJMには、論文に対する批評の“Letters”も掲載されています。具体的に引用するのは割愛しますが、傾聴すべき参考にすべきことが書かれているかと思います。

    ちなみに、私も西川さんと同じく肺炎球菌ワクチン接種対象の年齢で、市から案内書が届いていましたが、接種はしていません。

    1. nishikawa より:

      私は免疫学からスタートし、21世紀は新しいワクチンが医療費問題を救うと信じています。ただ、開発はしたたかな企業が進めるので、監視していくのは重要です。

      1. NANA より:

        > 21世紀は新しいワクチンが医療費問題を救うと信じています。

        「ワクチンが医療費問題を救う」とは、「ワクチン接種によって高騰する医療費を大幅に削減することができる」という意味だと受け取りました。

        そこで、「21世紀の新しいワクチン」のひとつである13価肺炎球菌ワクチン(商品名:プレベナー)の費用対効果について考えてみます。

        同ワクチンのオランダ臨床試験のデータが示すところは、既にコメントしたように、約42000人にワクチンを接種すると死亡の低減は見られないものの肺炎球菌肺炎の発症は約40人減るというものでした。
        肺炎治療(検査や入院、抗生物質の投与など)にかかる総医療費の1人当たり平均を多目にざっと100万円と想定してみます。
        すると、42000人に肺炎球菌ワクチンを接種することによって削減できる医療費は、

        40 × 100万円=8000万円 · · · ·①

        となります。

        次に、13価肺炎球菌ワクチン(プレベナー)の接種費用ですが、同ワクチンは日本では未だ薬価基準に収載されていないのでメーカー希望納入価格(7200円)と既存23価ワクチン(ニューモバックス)の薬価(4737円)を参考にして5000円と想定します。

        これを42000人に接種する総費用は、

        42000 × 5000円=2億1千万円 · · · ·②

        となります。
        (尚、この費用には接種の手数料費用を加味していません)

        ①と②を比較して明らかですが、肺炎球菌ワクチンが「医療費問題を救う」なんて、とても言えないでしょう。

        信じることは科学ではありません。
        「医学・医療を中心に科学を考えます。」という看板を掲げるのであれば、「ワクチンが医療費問題を救う」ということを納得できる形で科学的、具体的に説明してほしいものです。

        1. nishikawa より:

          肺炎球菌の話は適正価格の問題です。私の頭になるのは、希少遺伝子疾患で、例えばLDL受容体の突然変異による動脈硬化のような病気です。

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