11月4日:寄生虫がアレルギーを防ぐ仕組み(11月17日掲載予定 Immunity論文)
2015年11月4日
アトピーや喘息などアレルギー疾患は、寄生虫が蔓延していた頃にはほとんど存在しなかったと言われている。私たちの小学校時代は、寄生虫駆除剤投与が学校行事として行われていた時代で、たしかにアトピーなどは少なかったように思う。ただそんな世代も、寄生虫とは無縁の生活を続けた今、ふと気がつくと、私も含め花粉アレルギーの友人は多い。これについて私は、寄生虫に対してIgE抗体反応が誘導されるため、他の外来抗原への反応を抑えているからだと説明してきた。事実回虫のエキスはIgE反応を誘導するときのアジュバントとして使っている。今日紹介するスイス・ローザンヌEPFLからの論文は、寄生虫のアレルギー予防効果が寄生虫自体の作用によるものだけでなく腸内細菌の変化を介して起こる可能性を示唆する研究で、11月17日のImmunityに掲載予定だ。タイトルは「Intestinal microbiota contrib.utes to the ability of helminths to modulate allergic inflammation (寄生虫によるアレルギー性炎症の抑制作用は腸内細菌叢が媒介する)」だ。このグループは以前からアレルギー反応を抑制する寄生虫の能力に注目していたようだ。細菌叢が存在する条件で寄生虫を感染させると、気管のアレルギー性炎症が抑制できるが、実験で使われる細菌叢を除去したマウスでは寄生虫のアレルギー抑制効果がないことに気づいていたのだろう。細菌には効くが寄生虫には効果がない抗生物質の投与実験で、寄生虫によるアレルギー抑制効果が腸内細菌叢を介していることを確認する。すなわち、アレルギーに対する寄生虫の効果が、直接効果ではなく、腸内細菌叢を介しているという結果だ。確かに寄生虫を感染させると、腸内細菌叢の種類が変化し、アセテートやブチレートなどの短鎖脂肪酸の産生が上昇する。また、寄生虫を感染させた腸内細菌叢だけで寄生虫を感染させたのと同じ効果が出る。これらの結果から、寄生虫感染は腸内細菌叢を短鎖脂肪酸を作る細菌優勢へと変化させ、これが免疫機能を抑えアレルギー反応を改善させるというシナリオだ。このシナリオを証明するため、短鎖脂肪酸の免疫機能への作用を媒介する受容体を欠損させたマウスに寄生虫感染させると、アレルギー抑制効果が消失することを確認している。最後に、この効果の少なくとも一部が、抗炎症性のIL-10産生と、制御性T細胞の誘導によるけっかであることを示している。また、短鎖脂肪酸の上昇がマウスだけでなく豚や人でも同じであることを感染実験で行っている。十二指腸虫をボランティアに感染させる実験を行えるというのが驚きだが、ブタもヒトも寄生虫感染により短鎖脂肪酸の産生が上昇することを確認している。
汚い環境で生活した昔はアトピーなどなかったと懐かしむのはいいが、では昔に還る方がいいのかと聞かれると、答えはNOだろう。もし「汚い環境」のいいところだけ取り出して使えればと思うが、無毒化ができたとしても寄生虫を飲みたいという人は出ないだろう(世紀のソプラノ、マリア・カラスは痩せるためにサナダムシを自ら感染させていたとはいうがこれは例外だ)。この点、今日紹介した論文は、寄生虫の効果の一部を短鎖脂肪酸に置き換えた点で、アレルギー予防法開発へと至る可能性がある。もちろん、回虫エキスの免疫効果から見ても、寄生虫自体の能力も今後明らかにする必要があるだろう。今子供を持つお母さんの多くがアトピーになるのではと心配されていると聞く。その意味でこの研究は期待できる。