今日紹介するオーストラリア・ニューサウスウェールズ大学からの論文は粘り強くMycにより転写が誘導される分子を探索し新しい治療法を開発した研究で11月4日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Therapeutic targeting of the myc signal by inhibition of histone chaperone FACT in neuroblastoma (神経芽腫ではヒストンシャペロンFACT阻害によりMycシグナルを抑制できる)」だ。
この研究ではまず649人の患者さんの神経芽腫の遺伝子発現データを調べ、Mycとともに発現して悪性度ともっとも関わっている遺伝子を洗い出し、最終的にDNAがヒストンと結合してヌクレオソームを形成する時ヒストンのリクルートや交換に働くヒストンシャペロンと呼ばれる分子複合体の一つFACTが見つかった。この分子はMycによって転写が活性化されるとともに、シャペロン機能を通してMycの転写をあげることから、両者が促進しあう関係にある。幸いこのシャペロンに対しては米ベンチャー企業がCBL0137という阻害剤を開発しており、この阻害剤を使って神経芽腫の発生、腫瘍増殖の抑制などについて検討している。この薬剤投与でMycを強制発現させたマウスの神経芽腫発生を抑えることができるとともに、すでに発生したMycの発現が亢進している神経芽腫の増殖も抑えることができる。おそらく臨床的に重要なのは、FACTを抑制するとDNA損傷修復が抑制されるため、DNA損傷を誘導してガンを叩く薬剤との相性が良いことだろう。残念ながら、経口投与ではこの薬剤は効果がなく、すべて点滴で投与する必要があるが、抗がん剤との併用で最初から使う方法は期待が持てる。
ClincalTrial.gov.で調べると、ようやく固形癌やリンパ腫の第1相試験のリクルートが始まったところだが、神経芽腫の治験も視野に入っているのではと期待する。ただ、このような標的薬剤のほとんどは根治に至らず、最終的に再発することが経験から明らかになってきている。その意味で、多くの標的薬が開発された今、根治をキーワードに開発方法を一度見直すことが必要ではないだろうか。アカデミアもメーカーも特定の標的分子に対する化合物が発見できれば良いと、このためにひた走っているが、そろそろ視点をずらせてこれまでの開発手法を再検討する時が来たような気がする。
タンパク同士の複合体形成阻害というメカニズムへの興味もさることながら、シンプルな構造の阻害剤を見出したことに感心させられました。経口投与での固形癌やリンパ腫の大移送試験ということですが、構造からみて中枢移行性もありそうです。適応拡大に期待したいところです。
もう一点、彼らは患者さんの遺伝子発現データを調べ、腫瘍の悪性度ともっとも関わっている遺伝子を洗い出し、分子複合体を見出している。創薬に携わる我々はここから阻害剤スクリーニングに入るのだが、このターゲットを見出すプロセスの重要性を強調したい。疾患関連遺伝子の同定から、真のターゲット分子を見出す。そして疾患との関連性を検証する。この一連の研究による新規創薬ターゲットを見出す研究基盤が創設できないものか。。。疾患関連遺伝子の同定から、阻害剤スクリーニングまでに”死の谷”が存在しているようである。
小児ガンの治療薬はなかなか開発してもらえません。なんとかなって欲しいと思っています。