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11月17日:人畜共通ウイルスの起源としてのコウモリ(Nature Medicineオンライン版掲載論文)
2015年11月17日
中国で急に勃発したSARS騒ぎを今も覚えている人は多いと思うが、この原因となったコロナウイルスは今も動物宿主の中で進化を遂げていると考えられており、厳重なサーベーランスの対象になっている。このウイルスが進化するための宿主として注目されているのがコウモリで、最近将来の世界的流行につながるかもしれないSARSに似たウイルスが中国に住むコウモリに感染していることがメタゲノム解析から明らかになり、これが実際ヒトへの病原性があるのかなど検討が必要になっていた。今日紹介するノースカロライナ大学を中心とする国際チームからの論文はメタゲノム解析から発見された新しいコロナウィウルスの感染性や病原性についてキメラウイルスを再構成して調べた研究でNature Medicineオンライン版に掲載されている。タイトルは「A SARS-like cluster of circulating bat coronaviruses shows potential for human emergence(コウモリの末梢血中に存在するコロナウイルス集団は将来人間にも流行する可能性がある)」だ。この研究では2013年Natureに発表された中国に住むコウモリから分離されたSARSに似たコロナウイルスに注目して研究している。ただ、これまで示されたのは、メタゲノム解析で見つかった遺伝子配列だけで、ウイルスが分離されたわけではない。ただ、ウイルス分離には時間がかかるのと、分離中により毒性の高いウイルスを作成したりする可能性があるので、今回は遺伝子情報をもとにキメラウイルスを作成してウイルスの性質を明らかにする方法について検討している。RsHC014と呼ばれるコロナウイルスが持つヒトへの感染に必要とされるアミノ酸配列は、これまでのSARSによく似ている。そこで、新しくマウス細胞で増えるSARSウィウルスの骨格に、新しいウイルスの感染に必要な部分を置き換えたキメラウイルスを作成し、ヒト気管上皮細胞に感染させると、細胞内に感染し、ウイルス増殖も見られる。また、死亡には至らないが、感染させたマウスは体重が減少し、症状を伴う感染症の原因になる。次に、現在存在するSARSに対するモノクローナル抗体で新しいウイルスを防げるか調べたところ、全く効果がない。また、現在利用できるワクチンも利用できないことが明らかになった。幸い現在のところ、新しいウイルスは気管上皮内で増殖するうち弱毒化され、SARSのような強い病原性はないようだが、コウモリから人間や動物に感染しているうちに強い病原性を獲得する可能性は十分あると予想できる。また、この研究から、コウモリ内で人間への感染性が生まれ、直接人間に感染できるウイルスが存在する可能性が高くなった。これらの結果は、メタゲノムのデータから、ウイルスの感染性や病原性を調べ、将来の流行へ備えるワクチンの開発などが可能になることを示している。ただこの段階で、サルに感染させる研究まで進んでいいかどうかについては、キメラウイルスを作る今回の方法が予想しない病原ウイルスが生まれないという確かな保証がないと、強い病原ウイルスを人工的に作成するという最悪のシナリオになる可能性があることから慎重に行うべきであると強調している。しかし新しい感染に備える地道な研究が進んでいることがよく理解できた。