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11月21日:脂肪組織炎症によるメタボリックシンドロームの抑制(11月16日号Nature Medicine及びNatureオンライン版掲載論文)

2015年11月21日
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腸内細菌叢と肥満やメタボリックシンドロームとの関係が注目されている。このホームページでも何回か取り上げた。便移植による肥満の話や(http://aasj.jp/news/watch/424)、果ては遺伝子操作した細菌によるダイエット(http://aasj.jp/news/watch/1755)まで、研究は広がりを見せている。この効果についてもメカニズム研究が進み、細菌叢から分泌される因子による食欲調節、そして炎症を介した糖や脂肪代謝の変化が特定されている。今日最初に紹介するスイス・ジュネーブ大学からの論文は、抗生物質で腸内細菌叢を完全に除去した時に見られる糖代謝改善についての研究で11月16日号のNature Medicineに掲載された。タイトルは「Microbiota depletion promotes browning of white adipose tissue and reduces obesity (腸内細菌叢の除去により白色脂肪組織が褐色脂肪組織に変化し肥満が改善される)」だ。以前からこのグループは無菌マウスや抗生物質投与マウスの糖代謝を、高インシュリン・正常血統クランプ法と呼ばれる厳密な検査を用いて調べ、腸内細菌がないと耐糖能とインシュリン感受性が高まることを報告していた。この研究では、アイソトープを用いてクランプ状態でブドウ糖の取り込みが上昇する組織が鼠蹊部と生殖器官周囲の脂肪組織であることを突き止める。そして細菌叢除去による糖代謝の改善が、脂肪を溜め込む白色脂肪組織から、脂肪を燃やす褐色脂肪組織への転換によることを発見する。最後に、この転換の原因が脂肪組織に存在するマクロファージが炎症型に変化することを示している。まとめると、腸内細菌叢は脂肪組織の炎症を抑えて白色脂肪組織を維持しているが、抗生物質で除去するとこの作用が弱まり、白色脂肪組織は褐色脂肪組織に変わり、耐糖能やインシュリン感受性がよくなるという結果だ。
腸内細菌との関わりは調べられていないが、老化に伴う脂肪組織の糖代謝変化に炎症が関わることについてのソーク研究所からの論文がNatureオンライン版に掲載されている。タイトルは「Depletion of fat-resident Treg cells prevents age-associated insulin resistance(脂肪組織に存在するTreg細胞を除去すると加齢に伴うインシュリン抵抗性を阻止する)」だ。私も含めて老人になるとわかるのだが、何をしても太ってしまう。基礎代謝が落ちるせいと片付けてきたが、この研究は老化に伴い起こる脂肪組織の変化を調べ、PPARγ陽性のTreg細胞が加齢に伴い脂肪組織に蓄積することを発見する。次に、Treg細胞のPPARγ分子をノックアウトすると脂肪組織でのブドウ糖の取り込みが上がり、耐糖能やインシュリン感受性が上がりブドウ糖代謝が改善する。すなわち、加齢特有の脂肪組織でのTregの蓄積は、脂肪組織の炎症を抑え、メタボ型へ糖代謝を変化させているという結果だ。この2編の論文からわかるのは、脂肪組織内の炎症がメタボリックシンドロームの発症を抑えていることだ。「えっ!炎症がある方がいいの?」と訝しく思われるかもしれない。しかしよく考えると、飽食を経験する私たちのような人類は今もほんの一握りだ。普段は食料がないという条件に適応し、腸内細菌叢と共存し、老化に従って炎症を抑え、脂肪を蓄積するようにできていると考えればいい。従って、メタボリックシンドローム防止を基準に、炎症がある方がいいと考えるのは人類進化に逆らう先進国特有の生活から来る不条と考えれば全て納得できる。

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