確かに、技術が進み、ゲノム検査が当たり前になっても、医師のゲノム教育が追いついていないのが現状だ。これをどれだけ迅速に達成するか、これがアメリカの重要な課題になっている。幸いアメリカではPatient Portalなど、自分の医療データを個人が持ち運べるシステムが出来上がりつつあり(もちろん保険にもよるが)、生涯教育の一環としてゲノム医学を学ぶ必要は理解され始めている。これと並行し、ゲノム医学に精通した将来の医師を育てる必要がある。シークエンシングが安価になったことから、学生さん一人一人のエクソームや全ゲノムを読んで、具体的にゲノム解析に慣れてもらうという可能性も検討されているようだが、どうしてもプライバシーが含まれる情報を教育に使っていいのかというハードルがある。そこでペンシルバニア大学では、医学教育スタート時に、自分の担当する解剖の御遺体のDNAを採取、そのエクソームを業者に解析してもらって、医学教育に活かすというアイデアを検討しているようだ。問題は防腐処理を施した御遺体からDNAが採取できるかだが、これも解決済みのようだ。これが可能になると、解剖しながら、髪の色、皮膚の色、様々な体の形質、そして多くの御遺体が持っている病気を、解剖を通して学びながら、常にゲノム情報と対応させて考えることができる。当然、そのためにはゲノムデータベースをどう使うかなども学ぶことになる。学生自身のゲノムデータでは若いこともあり、病気との関連は難しいが、御遺体の多くは年齢も高く、何らかの病気もある。実際私が学生時代受け持った御遺体は膵頭部のガンで、身体中に転移があった。その意味では、さらに進んでガンのエクソームも可能かもしれない。このレポートでは、さらにゲノムにまつわる倫理もこれにより理解できるとまで踏み込んでいる。
エクソーム検査が3万円なら、もちろんやる気になれば、我が国も導入することは簡単なことだ。しかし教える教師がいるのかと考えると、お先真っ暗になる。一旦遅れが始まると、ますます拡大再生産され、気がついたら我が国はゲノム後進国になっているだろう。今行動が必要だ。