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朝日新聞9月13日(中村)記事:鼻粘膜の蛋白質、におい伝達に一役

2013年9月14日
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元の記事は以下のURL参照。
http://www.asahi.com/tech_science/update/0912/OSK201309120077.html

日本の臭覚研究の第一人者坂野さんのグループの仕事だ。生まれが福井だと本人から聞いていたが、東大から福井移っているのを知った。元の論文は坂野さんが責任者になっているが、記者発表には教室の若手をたてる所は清々しい。
  臭覚は臭い物質が臭覚受容体に結合しG蛋白質、サイクリックAMPなどの細胞内のシグナル伝達分子を介して神経興奮へと転換する。受容体は1000種類以上の遺伝子があり、一つの細胞はそのうちの一つの遺伝子だけを発現している。すなわち、神経を刺激する入力は1000以上の化学物質だが、出力は興奮と言う一つの反応に集約する。一個の嗅覚細胞は一種類の受容体だけを発現する。これによって入り口で刺激が混じらないようにしている。その上で、発現する受容体によって個々の嗅覚細胞の神経が神経を伸ばす場所が異なる事で、より複雑な臭いの区別が可能になっていると予想されている。このように特定の領域に神経が枝を伸ばす過程が、嗅覚受容体からのシグナルよって調節されている可能性が、これまで坂野さんを始め様々な研究者により示されていた。今回の坂野さんの研究は、臭覚神経細胞の発生プロセスに関わる、臭覚受容体が関わる過程に働いているシグナルについてほぼ完全に明らかにした力作だ。シナリオは次の様になる。まず、それぞれの受容体は臭い物質刺激なしに自発的に発生させるシグナルの強さに応じて、神経細胞の枝の前後軸の分布場所を決めている。この場所決めに関わるシグナルの強さの差は、それぞれの受容体の固有の構造によって生まれる。これまでの謎を解く大変重要な発見だ。ここまでは胎児発生の過程だが、生後は臭い物質により刺激され、最後の場所決めが起こる。今回の仕事では、生まれる前と後の過程にはともに臭い受容体が必須だが、細胞の中で使われている分子は異なっていることも明らかなった。これも重要な発見だ。専門的なのでこれ以上深く解説する事はしないが、新たな問題を含めて将来の方向を示す重要な仕事だ。素人の私が見ても、更に面白い可能性が色々浮かんでくる。
 さて、朝日新聞の中村記者の記事だが、一般の方には理解しにくいが重要な研究について、伝える焦点を絞ってうまくまとめたと思う。特に、臭い物質の刺激によらない受容体が固有に持つ自発的興奮が発生初期の神経の分布に重要であると言う、今回の仕事の目玉に焦点を当てて伝えている。「「基礎活性」か高いセンサーを持つ嗅細胞は脳の奥へ、基礎活性か低いセンサーを持つ嗅細胞は手前にと、活性の度合いに応じた場所に接続していることが分かった」と言う表現は私も見習いたい。 しかし、この内容の面白さについては、これではなかなか伝わらないだろうとも思う。どう表現すれば重要性が伝わるのか、私も更に努力したい。問題もある。まず見出しは内容に合っていない。鼻粘膜の蛋白質の中のにおい伝達分子を明らかにした仕事のように私も錯覚した。今回の場合、臭い受容体自体が神経の接続場所を決める事を伝える事が大事だ。さらに、薬の開発で記事を締めくくるのはどうしたものかと感じた。今、国は役に立つ科学を強く意識した政策を推進している。しかし、どの病気に、どのような薬を開発するかなどを明らかにしないで、お題目として創薬について唱える事が国の科学技術政策の反映だとしたら寂しい。
   嗅覚細胞は神経細胞の中でも、生後定期的に、細胞が新しいものに置き換わり続けると言う珍しい性質を持つ。それでも私たちの臭い認識能力はあまり変わらない。これは今後の重要な問題だ。かくいう私も、10年ぐらい前、感染によって臭いを完全に失った。その後徐々に回復したが、ワインや食べ物などのいい臭いを識別する能力は全て回復したにも関わらず、不快な臭いについては今も全く戻っていない。ある意味では極めて喜ばしい性質を身につけたのだが、どうしてこのような事が起こるのか、さらにこの回復過程を自由に臭い物質や薬で調節できるのか興味は尽きない。臭いが一時的に失われる経験される患者さんは多い。薬について書くなら、この程度の事は付け加えるぐらいの事をして欲しかった気がする。

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