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1月26日:ヨーロッパ最後のペスト(1月21日発行eLife掲載論文)

2016年1月26日
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  ペストはYersinia Pestisと、細菌の発見者Yersinの名前をとって名付けられた細菌による感染症で、先進国での発生はすでにないが、途上国ではまだ発症が続いている。ペストとよく似た症状の疫病の記録はギリシャ時代から存在するが、本当にペストかどうか確認することは難しかった。ところが、骨に残るDNAからヒトゲノムを解析する方法が発展すると、ユスチニアスペストとして知られる6世紀中期ヨーロッパからアジアに広がる大流行で亡くなったドイツ人の歯から単離されたペスト菌ゲノムが2014年に解読され、大きな話題になった。古代の菌株が現存の菌株と比較的近いことが証明されることで、1500年前のペストも同じYersina Pestisによることが明らかになった。もちろん黒死病として恐れられた中世のペスト菌もロンドンでの死者の骨から分離され、ゲノムが解読されている。これら一連の古代 DNA解析から明らかになったのは、ユスチニアペスト菌と近代に入って中国などで流行したペスト菌は比較的近い関係にあるのに、それと比べると中世の大流行をもたらしたペスト菌が遺伝的に離れていることだ。一方、現在散発的にペストを発病させている菌は中世ペストの菌に近い。このため、起源は同じでも、ペストの病原菌は2つの大きな系統が存在すると考えられている。   今日紹介するドイツ・カナダ国際チームの論文は、18世紀マルセーユで流行したヨーロッパ最後のペスト菌のゲノムを解読した論文で1月21日号のeLifeに掲載された。タイトルは「Eighteenth century Yersinia pestis genomes reveal the long-term persistence of historical plague focus(18世紀のペスト菌ゲノムは歴史的大流行の菌種が長期間維持されていたことを明らかにする)」だ。   この研究は1994年に、1722年のペスト流行の死者を葬った集団墓地から回収された261体の完全な骨格からペスト菌の分離を試み、5体より当時のペスト菌ゲノムを単離、解読した研究だ。実際には平均12回繰り返して読める程度のDNAが回収されており、系統間の関係を調べるには十分なようだ。ゲノム解読の結果、ヨーロッパ最後のペスト流行、即ち中世の流行から300年後の流行の原因となったペスト菌は、中世黒死病のペスト菌の系統に属することが明らかになった。これにより、1)ペスト菌は流行がなくとも、ネズミなどの宿主によって300年以上維持できること、2)ヨーロッパでは検疫が進み、今回発見された菌種も実際には絶滅していることがわかる。   話はこれだけだが、疫病は人間の精神史に大きなインパクトを持ち(多くの小説がそれを物語る)、歴史を変えてきた。その意味で、記録に残る流行を引き起こした実際の菌のゲノムが一つ一つ解読されるのを見ると、歴史学は理系と文系が統合された新しい分野として発展していることを実感する。

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