今日紹介する上海科学アカデミーからの論文はMECP2重複症に相当するモデルをカニクイザルにMECP2遺伝子を導入して作成したという研究で2月4日号のNatureに報告された。タイトルは「Autism-like behaviours and gremline transmission in transgenic monkeys overexpressing MeCP2(遺伝するMeCP2を過剰発現により自閉症様症状を示すカニクイザルの開発)」だ。
この研究ではストレートに外来遺伝子を、遺伝子導入効率の高いレンチウイルスベクターを用いて導入し、脳内のMeCP2の発現を上昇させる方法を用いている。簡単そうだが、今でもトランスジェニック猿の作成は簡単でない様だ。いずれにせよ、様々な症状を示す系統が作成されている。一部の系統では、成長後の様々な時期に、急に体重減少と大脳体積の減少をきたす強い症状がみられている。一方、全身症状は軽度で神経症状を示す系統も作成している。詳細は全て省くが、神経学的には、同じ行動を繰り返し、常に不安感情を示し、他の個体との社会行動が低下するヒトの自閉症に似た症状を示すモデルができたことは重要だ。すなわち、MeCP2の発現により誘導される遺伝子発現異常と症状を送還させることができる。この研究でも、変化の持つ意義の解析はまだまだだが、MeCP2の発現上昇によって変化する遺伝子のリストが出来上がっている。今後、MeCP2の発現量、染色体の構造パターンの解析を進めて、神経症状の背景にある分子メカニズムを明らかにできるのではと期待する。この研究を通して発見される分子標的に対する薬剤の効果を確かめたり、さらには発現を正常化させるための遺伝子治療開発にもこのモデルザルは利用できるだろう。幸い今回開発された系統は維持・増殖が可能で、ぜひ広く利用が進み治療開発研究が加速して欲しいと思う。 この分野の急速な進展を目にすると、一度ニコニコ動画で最近の研究解説としてまとめてみたいと考えている。
この研究を通して発見される分子標的に対する薬剤の効果を確かめたり、さらには発現を正常化させるための遺伝子治療開発にもこのモデルザルは利用できるだろう。
→医科学研究は、マウス医学とも揶揄されています。
疾患モデルサルの開発は、特に脳神経系疾患研究には欠かせないと思います。
サルには気の毒ですが。。。