精子発生の最後の過程で細胞質の連絡を保ったまま分裂を繰り返すことは知っていたが、恥ずかしいことにこの論文を読むまで卵巣内の卵子形成初期過程で細胞質が連絡した一連の姉妹卵子がまず形成されることは全く知らなかった。この研究では、一個の幹細胞をラベルする遺伝的方法を用いて、同じ細胞由来の姉妹卵子集団を生後4日ぐらいまで追跡している。この姉妹集団ではそれぞれの細胞はリングカナルと呼ばれる構造でつながっているのが、これを免疫染色してそれぞれの姉妹卵子の関係を調べている。最初30近くの細胞から出来ていた集団は徐々に細胞数が減り、生後4日では平均6個程度になり、これが卵子として維持される。この論文ではこの過程での細胞選択がどのように進むのか調べ、驚くべきことに選択過程で、様々なオルガネラ(細胞小器官)が細胞質を通して選択された細胞に移ることを発見した。「驚くべきことに」といっても、これは哺乳動物しか知らない私の感覚で、ほとんどの種の生殖細胞では、姉妹生殖細胞からオルガネラが移行することは当たり前の話だったようで、Alanにとってみれば、マウスで起こっていないのはおかしいと調べ始めたようだ。
この移行にはリングカナルとは別に細胞膜が融合した場所が形成され、この大きな穴を通って、しかも微小管に依存して、中心体、ゴルジ体、ミトコンドリアなどが一方向に移動し、もらった方の細胞ではオルガネラが急速に発達、提供した細胞では核だけを残してやせ細って、最後は消えてしまう。結局、最後の卵胞成熟過程でもそうだが、卵子ができる過程でも、姉妹細胞の犠牲のもと、一定の強い卵子が形成されることになる。プロの視点を実感させる面白い仕事だった。ただ、Alanたちはこの細胞質の移行の最大の目的はノンコーディングRNAを一つの卵子に集中させることで、オルガネラの移行自体は絶対的に必要だとは考えていないようだ。彼はPIWIを最初に発見した研究者だが、このようなノンコーディングRNAによる染色体の再構成は生殖細胞発生に必須の過程だ。そのために、オルガネラも含めた大規模な細胞質の移行を起こす仕組みが種を超えて維持されていると主張している。今後、この主張を取り入れた方法を使わないと、試験管内で卵子をES/iPSから作ることは困難だ。Alanはまた哺乳動物の研究者に新しい課題を示してくれた。脱帽。