このような状況で、バクテリアの集団がクリスパーシステムを多様化させ、ウイルス側の突然変異に対応しているのかを研究したのが今日紹介するエクセター大学からの論文で4月13日号のNatureに掲載された。タイトルは「The diversity generating benefits of prokaryotic adaptive immune system (原核生物の適応免疫系が多様性を持つことの利点)」だ。
単一クローンレベルで見たとき、ウイルスとそれに対する防御機構の間で突然変異をベースにした競争が繰り返すことは誰もが知っていることだ。しかし著者らの興味はウイルスとホストの「いたちごっこ」でないことがわかる。よく読むとこの研究の目的は、集団が最初から多様化していることで耐性ウイルス発生を抑え込める可能性を示すことのようだ。この研究に使われたのは緑膿菌とそれに感染するDMS3ウイルスで、ウイルス感染させると5日でウイルスを完全に除去してしまうクリスパー系を持っている。もちろんCAS遺伝子をノックアウトしたバクテリアではウイルス感染は続く。
素人から見るとこれは当たり前に思えるが、ウイルスの変異能力から考えて5日という短期間でウイルスが完全に除去できることを著者らは疑問に思ったようだ。そして、一つのバクテリアが保有できるスペーサーの数は限られても、集団として保有するスペーサーが多様化することで、ウイルスがいくら突然変異を起こしても感染が広がらないのではないかと考えた。
そして、すでに分離していた異なるスペーサーを持つ48種類の緑膿菌株を様々な割合で混合して、ウイルスを感染させるバクテリアの集団内のスペーサーの数を、1、6、12、24、48個と増やし、ウイルス感染実験を行っている。
すると、集団で保有するスペーサーの数が増えると、ウイルスは即座に除去されてしまうことが明らかになった。
ではウイルスの方はどうなっているのか、経時的にサンプリングして遺伝子配列を調べると、スペーサーの数が6個ぐらいまでだと、まだ耐性突然変異を起こしたウイルスが出現するが、集団がそれ以上のスペーサー多様性を持っていると、耐性ウイルス自体が出てこなくなるという結果だ。おそらく、耐性ウイルスはできるのだろうが、集団の抵抗力の多様性が高ため、結局他のバクテリアに拡大できず、集団からは消え去るようだ。 これだけの話だが、ガンの薬剤耐性、新興ウイルス流行など、細胞や個体の集団を考えるための面白い研究システムになるように思えた。もちろんウイルスも強敵で、実際にはクリスパー自体の作用を無毒化できる究極のウイルスまでできるようだ。ダーウィンに脱帽。