今日紹介するミシガン大学からの論文は白金製剤耐性が最も問題になる卵巣癌について、薬剤耐性が出現する過程を明らかにした論文で5月19日号のCellに掲載された。タイトルは「Effector T cells abrogate stroma-mediated chemoresistance in ovarian cancer(エフェクターT細胞は卵巣癌のストローマ依存性耐性を無効にする)」だ。
研究手法はオーソドックスで一昔前の内容ばかりに見えるが、ともするとモデル動物や細胞株だけで終始するガンの薬剤耐性研究を、最初からガン患者さんから得られたサンプルを用いて行っている点で、臨床研究家の強い意志が見られる研究だ。
手術で得られた卵巣癌と、ガンの周りの細胞を同時に免疫不全マウスに移植すると、シスプラチンに耐性になることがこの研究のきっかけだ。すなわち、ガンの周りのストローマ細胞が、シスプラチンからガンを守っている。そして、様々な実験を組み合わせて、 1) ガン周囲に集まるCD8陽性T細胞により、ストローマ細胞によるガンの保護作用を抑制することができる。この作用は、T細胞由来のγインターフェロンで置き換えられる。
2) 線維芽細胞によるガンの保護作用は、ガン内でのシスプラチン濃度上昇を抑制することが原因になっている。
3) これには線維芽細胞からガン細胞へ受け渡されるグルタチオンによってシスプラチンがキレートされることが原因になっている。
4) CD8陽性T細胞が分泌するインターフェロンは、ファイブロブラストでのシステイントランスポーターの転写を抑制し、グルタチオン産生を抑制することで、線維芽細胞のガン保護作用を無効にしている。
5) 卵巣癌では、ストローマ細胞の存在やCD8+T細胞の浸潤が、ガンの予後を決める。
を示している。
すなわち、卵巣ガンの薬剤耐性は、ホストの解毒作用をうまく利用した結果ということになる。
論文を読み進むと誰でも知りたいと思う卵巣癌の間質でのグルタチオン代謝と予後についての結果が分かるには、これから前向きの研究が必要で時間がかかるだろう。しかしこの研究が正しければ、シスチントランスポーターの機能を阻害するサラゾスルファピリジンの効果が期待されるし、なによりもインターフェロン投与も効果が期待できる。将来について著者らは免疫チェックポイント治療との併用を強調して、せっかく見つけた代謝経路を標的にすることに触れていないが、婦人科学教室も関わっているので、この点もぜひ調べて欲しいと思う。