今日最初に紹介する英国からの論文は、「遅い時間に夕飯をとると太る」という通説を調べた研究でThe British Journal of Nutrition 115:1616に掲載された。タイトルはズバリ「The timing of the evening meal:how is this associated with weight status in UK children(夕飯の時間:英国の児童にどのような影響があるのか?)」だ。
研究では4−10歳の児童768人、11−18歳の児童852人に4日間食事日記をつけてもらい、8時以降に夕飯をとる児童と、それ以前にとる児童で肥満度を比べている。他にも栄養摂取量など詳しく調べているが、結論は夕飯が遅くとも、児童に関しての肥満度の差は確認できないことが明らかになった。
もう一編のロンドン大学からの論文は水道の水に含まれるカルシウム濃度とアトピーの発生率を比べた論文で、The Journal of Allergy and Clinical Immunologyオンライン版に掲載された。タイトルは「The association between domestic water hardenss, chlorine and atopic dermatitiss in early life: a population-based cross sectional study(家庭の水道の硬質度や塩素濃度とアトピー性皮膚炎:地域別横断的研究)」だ。
硬水を使っているとアトピーになりやすいという可能性は考えたことがなかったが、これまでも問題にされて来たようで、大人については我が国からの研究も発表されている。ただ、ひふのバリアーが完全でない乳児についてこれを調べた研究はなかったようだ。この研究では、1303人の3ヶ月児をリクルートし、診断基準に従ってアトピー性皮膚炎に罹患しているかどうか調べている。他にも、皮膚からの水分蒸発度を調べたりして、皮膚のバリアー機能を測定している。その上で、それぞれの住む地域の水道データから炭酸カルシウム濃度と塩素濃度を割り出し、アトピー性皮膚炎と水道水の硬度との関係を調べている。
結論だが、この通説は正しいようで、水道水の炭酸カルシウム濃度や塩素濃度が高い地域では、アトピー性皮膚炎が優位に増加している。最近出産時にワセリンを塗ることでアトピーの発症を著明に抑えられることが報告され、乳児期に皮膚のバリアーを守ることの重要性が明らかになっている。その延長で考えると、硬水で体を洗うことで、知らず知らずのうちに皮膚のバリアーを壊しているのかもしれない。
17世紀からの哲学を追いかけていると、イギリス経験論の実証性が大陸の哲学者に大きなインパクトを与えたことがよくわかる。この通説を信じず、自ら確かめる精神がイギリスには生きていることが、これらの論文を読んで改めて実感した。