今日紹介する論文はその典型で、心筋梗塞を防ぐ遺伝子変異を発見した研究で5月23日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Variant ASGR1 associated with reduced risk of coronary artery disease (冠動脈疾患リスク低下と相関するASGR1変異)」だ。
deCodeは血中のコレステロール値と相関するSNPを多く発見してきているが、今回は心筋梗塞リスクとの相関性が特に高いnon HDLコレステロール値と相関する遺伝子座に注目し、まず17番染色体上の7つのSNPを特定、その中の低いnon HDL値と相関する0.4%程度の頻度の遺伝子座に焦点を当てて研究を行っている。
この遺伝子座について全ゲノム配列解読を行い、シアル化されていない糖蛋白を補足し細胞内へ取り込む受容体遺伝子ASGR1遺伝子の4番目のエクソンに12塩基の欠失が入ると、non HDLを低下させることを明らかにしている。さらに、同じ欠失がデンマークやオランダ人にも存在し、やはりnon HDLを下げる効果があることを明らかにしている。この欠失はRNAスプライシング部位をずらせて、それに伴いASGR1分子機能も消失する。これらの結果から、ASGR1遺伝子が片方の染色体で欠失して量が減るとnon HDLが低下すると結論できる。この研究ではさらに、4塩基の挿入による同じ遺伝子の機能喪失でもnon HDLが低下することを示し、ASGR1分子機能低下とnon HDLの低下に因果関係があることを確認している。
最後に、心筋梗塞の発生率をこのASGR1遺伝子座を持つ人と対照群で比べると、男女ともこの遺伝子座を持つ場合に心筋梗塞のリスクが優位に低下している。すなわち、ASGR1遺伝子の活性が適当に低下したほうが、心筋梗塞になりにくいと言える。原因については、ASGR1の量が減ることで、肝細胞内のLDL受容体リサイクル過程が影響を受け、non HDLの肝細胞への吸収が変化すると説明している。
これまで疾患や様々な検査値と相関する数多くの遺伝子変異が報告されたが、それぞれの変異と疾患の納得いく因果関係を示すには、大規模で地道な研究が必要なことを論文を読んで改めて認識した。