今日紹介するフィンランド・ヘルシンキ大学からの論文はメラトニンがすい臓ベータ細胞のインシュリン分泌を抑えることを示して、メラトニン服用について注意を促す研究で6月14日号のCell Metabolismに掲載された。タイトルは「Increased melatonin signaling is a risk factor for type 2 diabetes(メラトニンシグナルの上昇は2型糖尿病のリスクファクターになる)」だ。
糖尿病の遺伝子多型を調べる研究はわが国を含め盛んに行われ、今や100以上の多型が糖尿病と関連するとしてリストされている。しかし、一部のすい臓発生とインシュリン遺伝子発現に関わる遺伝子を除くと、リストされた多型のほとんどは明確な因果性を突き止めるところまでは至っていない。この中の一つが欧米では3割に見られるメラトニン受容体B(MTNR1B)遺伝子座にある一塩基多型で、Cの代わりにGを持つと糖尿病リスクが上がる。このグループはこれまでもこの多型について研究を続けてきている。
この論文では、まず膵島移植ドナー細胞204例を調べ、G型を持つとMTNR1B遺伝子の発現が上昇することを見つけている。すなわちこの多型は、遺伝子発現調節領域の多型で、おそらくCからGへの変化で、NeuroD結合サイトが新たに生まれて、MTNR1Bの転写が上昇するからだと結論している。
次に、インシュリンを分泌しているベータ細胞株にMTNR1Bを強制発現させて調べると、メラトニンはインシュリンの分泌を受容体の発現量に応じて低下させることを示している。また、これがグルコースにより誘導される細胞内cAMP濃度の上昇を抑える結果であることも示している。このことから、メラトニンはもともとベータ細胞の細胞内cAMP上昇を抑えてインシュリン分泌抑制を行うが、MTNR1B発現の高いG型の人ではこのメラトニンの効果が倍加していることを示している。
そこで、MTNR1B遺伝子が欠損したマウスモデルを調べると、ベータ細胞数が増加し、インシュリン分泌が上昇していることが確認出来る(体全体のインシュリン感受性を変化させることで、血中ブドウ糖濃度は変化していない)。
最後に人間に戻って、CC型とGG型の人に3ヶ月メラトニンを服用してもらい、GG型の人はインシュリン分泌及びインシュリン反応性の両方が強く抑制されていることを明らかにしている。
以上の結果から、メラトニン自体はインシュリン分泌を抑制する効果があること、またその効果はGGを持つ人に強く現れることから、メラトニン服用にあたっては自分がどのタイプか調べるのが大事なことがわかる。さらに、メラトニン分泌は時差ぼけだけでなく、夜勤シフトなどで起こることから、このような労働に従事するときもこの多型をあらかじめ調べることが重要になる。もちろん、糖尿病検査や治療にあたっても、この多型の頻度を考えると、常に念頭に置いて検査を行うことが重要だ。例えば、この多型ではcAMP濃度上昇が抑えられるため、cAMP濃度を上昇させるインクレチンは他の糖尿病薬よりよく効く可能性がある。
このように、遺伝子多型と疾患の因果性が明らかにされると、臨床現場に様々な変革をもたらすことがわかる。プレシジョンメディシンは一歩一歩実現に近づいている。
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