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7月11日:神経芽腫とlet7(7月6日号Nature掲載論文)

2016年7月11日
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   21世紀に入って、生命科学領域では様々なデータベースが整備され、自分で実験をしなくても、自分の疑問を念頭にデータベースと向き合うだけで様々なことがわかる様になった。これは私の様な年寄りには本当に驚きで、なによりも研究費が不足している時も、データベースを活用するとなんとか研究を続けられる可能性を示している。これを実感したのが、神経堤細胞が増殖する時に発現している分子arid3Bが神経芽腫で強く発現していることをガンのデータベースから見つけた時だ。これには教室の仲間のJaktさんと小林さんの貢献が大きい。現役の最後に病気の発症に関わる分子をほとんど費用をかけず一つ発見できたのは嬉しかった。
   とはいえ、引退後arid3Bとガンを結びつける話はあまり着目されず進展していなかった。ところが論文を読んでいると、最近台湾のグループがlet7-miRNAによりarid3Bが調節され、この経路の異常が発がんに関わる可能性を示す研究を発表して、個人的に注目していた。
   今日紹介するハーバード大学からの論文はlet7とneuroblastomaの関わりを調べた研究で、arid3Bとlet7が結びついたかもしれないと個人的興味で読んだ。タイトルは「Multiple mechanisms disrupt the let-7 microRNA family in neuroblastoma(神経芽腫では複数のメカニズムでlet7マイクロRNAが破壊されている)」だ。
   この研究は様々なタイプの神経芽腫で腫瘍化に関わることがわかっているMYCNを抑制するmiRNA、let7の発現を調べた仕事だ。はっきり言って、研究そのものはそれほど高いレベルでなく、これまである程度知られている現象について、力仕事を展開した印象で、スマートな感覚は全く感じない。
   Let7がMYCNを抑制することはわかっているので、おそらく発端は神経芽腫でも調べてみようか程度で始めたのだろう。
   重要なメッセージがあるとしたら、神経芽腫とlet7の関係は、let7の機能が低下してMYCNが上昇してガンになるという単純な話ではないことを示したのだろう。即ち、let7を抑制するLin28を抑制しても神経芽腫にはなんの影響もない。そこでlet7がなぜMYCN遺伝子が増幅している神経芽腫でうまく働かないのかを調べ、今度はMYCNmRNAそのものがlet7の働きを抑制していることを示している。この結果、let7が抑制している標的mRNAが抑制できなくなり、他のガン遺伝子が上昇するというシナリオだ。嬉しいことにこの標的にarid3Bがリストされており、私の頭の中では話がつながったという実感を得た。
   一方、MYCN遺伝子増幅のない神経芽腫でのlet7の関わりも調べられ、この場合let7をMYCNの転写物が抑制することはない代わりに、遺伝子欠損が高い確率で起こっていることを示している。
   まとめると、let7を様々な方法で抑制することがMYCNをドライバーとする神経芽腫の発生にとって必須であるという結論になり、これだけではちょっと物足りない印象を受けるだろう。
  ただ個人的には、arid3B+MYCNによる神経芽腫と多能性幹細胞の増殖調節というシナリオがlet7を介してより明確になったのではと喜んでいる。

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