ところが、これまでの研究にもかかわらずKi67が細胞分裂期に何をしているのか明確に示した研究はなかった。今日紹介するウィーンにあるバイオセンターからの論文は、ついにKi67の機能を突き止めたという論文で7月14日号のNatureに掲載された。タイトルは「Ki-67 acts as a biological surfactant to disperse mitotic chromosomes (Ki67は分裂期染色体の分離に生物学的表面活性剤として働く)」だ。
この研究の本来の目的はKi67分子の機能を明らかにすることではなく、分裂期に核膜が壊れた後、多数の染色体がからみ合わずに他の染色体から分離されるメカニズムを明らかにすることで、このためにAuroraBによってリン酸化を受けたヒストンH3Bを可視化し、分裂期の細胞をビデオで追跡できる実験系を構築している。次に、この系でノックダウンすると染色体の分離に異常が起こる遺伝子をsiRNA法でスクリーニング、検討した1300近い分子の中で唯一異常をおこしたのがKi67だった。
その後この分子の機能を、分裂期の各段階で調べ、Ki67が染色体の絡まりを防ぎ、一本一本分離する過程に関わることを突き止める。
分子の作用する過程を明らかにした後は、この過程でKi67と相互作用する様々な分子を特定する実験に進む。通常この目的で、Ki67を完全欠損し染色体が分離できなくなった細胞に、様々な部分を欠損させたKi67遺伝子を導入して、正常化のためにどの部分が必要かを特定する。
この実験により普通はKi67の機能ドメインが特定され、相互作用する分子が特定できるのだが、結果は驚くべきもので、染色体と結合する部分と荷電したタンパクが存在して両親媒性の性質さえ存在すれば、特定の部分がなくても機能を発揮できるということが分かった。これを確かめるため、同じように両親媒性を持つコアヒストンを用いてKi67欠損を正常化できるか調べ、Ki67でなくとも両親媒性を持つ分子を大量に発現させれば染色体が分離することを確認している。
以上の結果から、Ki67の機能は、形成されつつある染色体をコートして界面活性剤として働くことで、染色体同士を反発させ、絡み合いを防いでいると結論している。すなわち、この反発作用は磁石と同じで、染色体全体の荷電量が重要で、Ki67は他のタンパクと比べると最も効率の良い構造をしていることがわかる。
ちょっと驚きの結果だが、分裂期に大量に必要とされる分子だったために、最適のマーカーになっていたことが納得できた。
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