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7月24日:リンパ球からのインターフェロンが社会性を決める?(7月21日発行Nature掲載論文)

2016年7月24日
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    脳には、感覚器のみならず、体の活動状態が常にインプットされている。ただ、このためにはインプットするための結合が必要で、神経自体や内分泌系が主要なインプット経路と考えられている。加えて、免疫システムも脳に直接作用を及ぼし、行動に影響する可能性についての研究も根強く存在しているが、大きな分野に発展するには至っていない。
   今日紹介するバージニア大学からの論文はリンパ球が分泌するインターフェロンが様々な動物の脳に直接働きかけ社会性を抑制するという研究で7月21日号のNatureに掲載された。タイトルは「Unexpected role of interferon-γ in regulating neuronal connectivity and social behaviour(神経の連結や社会行動の調節に関わるインターフェロンγの思いがけない役割)」だ。
   もともとこのグループの所属は「脳免疫学とグリア部門」で、免疫系と脳機能の関わりが研究対象で、特に免疫異常で自閉症様症状の社会行動の異常が起こるという報告に興味を持っていたらしい。
   この研究ではthree chamber testと呼ばれる、他のマウスへの関心の程度を調べる方法を用いて、リンパ球の存在しないscidマウスと正常マウスを比較し、リンパ球が欠損すると他のマウスへの関心が薄れることを発見している。この様な話はよく聞くし、またscidマウスはDNA切断修復異常マウスなので、興奮でDNA切断が起こる神経の異常が起こっても何の不思議はないが、この異常を正常のリンパ球を移入することで治すことができるとなると話は俄然面白くなる。
   次に、リンパ球が社会行動に影響するメカニズムを調べ、先ずこの効果がインターフェロンγに媒介されていることを発見する。実際、インターフェロンが欠損したマウスにインターフェロンを注射すると、急に社会性が戻る実験を示している。そして、このインターフェロンがグリアなどの炎症に関わる細胞ではなく、直接前頭前皮質のGABA作動性神経に働きかけ、抑制性ニューロンを活性化させることで社会行動をサポートしていることを示している。
   最後に、この様な連結が確立した理由を、感染などで炎症を起こした個体が、インターフェロンγにより社会性を高めることで、集団の中で守られることが種の保存に役に立ったからではないかと仮説を立て、ラット、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエの社会行動と脳の遺伝子発現を調べた文献のデータを、今回の結論を下に再検討し、すべての種で社会性の欠如する状況に置かれた個体はインターフェロンが低下していることを示している。
   この論文の結論は、「脳内でのリンパ球の活性化と、インターフェロンγの分泌が社会性の維持に重要」になるが、実際には正常マウスが対照になっていることを考えると、正常状態でリンパ球の活性化が起こり、社会性を維持していることになる。だとすると、病的状態で実際にこのレベル以上のインターフェロンが何をしているのかについてははっきりしない。
   また私の様なあまのじゃくから見れば、感染時あまり社会性が上がると他の個体に病原菌が拡がらないかも心配だ。
   現象は面白いが、この仮説をそのまま受け入れるにはまだまだデータが欲しいと思う。

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