ところが今日紹介するオランダ・アムステルダム大学からの論文を読んで、「なるほど光ピンセットもこんなふうに使えるのか」とそのパワーに驚かされた。タイトルは「Sliding sleeves of XRCC4-XLF bridge DNA and connect fragments of broken DNA(XRCC4-XLF複合体が形成する移動する鞘がDNAを架橋し破断したDNAを結合する)」で、Natureオンライン版に掲載された。
研究では2つ、あるいは4つの物体を同時に捕捉できる電子ピンセット、微量な流れを再現できるマイクロフルイディックス、そして蛍光顕微鏡を組み合わせて、一本の切断されたDNAをXRCC4-XLF複合体が修復するダイナミックスを分子レベルで観察している。
これまで切断されたDNAに関わる修復複合体についてはかなり詳しく研究され、ほぼ正確な像が教科書にも示されるようになっている。しかし、この研究のように実際にXRCC4-XLFがどう切断されたDNAをつかんで修復するのかについてリアルタイムで観察することなどできなかった。この意味で、この研究は極めてエキサイティングで、例えば切断された2本のDNAがゆらゆらと流れの中で伸びているのをキャッチして結びつける、あるいは2本のDNAを捕まえた後、DNAを一方向に滑っていく様子、さらには捕まったDNAを引っ張った時、どの程度の強さで2本のDNAをホールドするかなど、光ピンセットならではの実験がこれでもか、これでもかと示されている。この技術のポテンシャルを実感する。
この研究から明らかになった修復のシナリオを最後にまとめておこう。
まず切断されたDNAにXRCC4のDNAへの結合はXLF分子がガイドし、そこでかなり強い結合を起こす。実際、引っ張ってみるとホールドされている部分ではずれず、DNAが切れる方が早い。こうしてできた2本のDNAを束ねるXRCC4-XLF複合体はDNA上を滑り、断端に集まりおそらく修復につながるという結果だ。
今回はDNAを捕まえて動くという過程の可視化が中心だが、今後断端での過程や、あるいは断端で起こっているリン酸化反応など様々な過程を見ることができるだろう。将来さらに多くのビデオが見られ、DNA修復の全像を映画で見ることができるのではと期待させす論文だった。
しかし、オランダと並んで我が国もDNA修復では世界をリードしていたと思うが、最近は論文を目にすることは多くない。どうなっているのか少し心配だ。