この論文は、人間が一定の時間内に経験するエピソードの順序を記憶できるのは、周波数の高いγ波と極めてゆっくりとしたΘ波をカップルさせることで行っているということを証明しようとしている研究で、タイトルは「Episodic sequence memory is supported by a theta-gamma phase code (エピソードの時間的順序に関する記憶はΘ—γ位相コードにより維持される)」だ。
まず正直に明かすと、この論文の詳細について理解するのは難しかった。もともと、実験するのが難しい課題で、様々な仮定の上に論理が組み立てられる。著者の論理の展開についていくには、この領域の研究についてしっかり理解する必要があるのだが、これが欠落している私にはわからいない点が多かった。それでも紹介したいと思ったのは、経験の順序を記憶するために持っている内的な時計は何かという、私たちが当たり前のようにやっていることも、考えてみるとほとんど説明がついていないことを教えられたからだ。
ではこの研究はこの問題にどうアプローチしているのか?
エピソードの時間的順序を記憶するためには、エピソードの起こった時間を記録する必要がある。時計を使って時間を記録すれば簡単にできることだが、日常の経験では一々時計を見ることはない。それでもエピソードが起こった時間を記憶できるのは、内的な時計があって、それにエピソードを関連づけているとしか考えられない。
この内的にリズムを刻んでいる時計が脳内のどこにあるか考えると、私たちの脳波のパターンにおもい至る。この研究では、エピソードの知覚に連動したγ波が、時計の代わりをしているΘ波に連動させることで、エピソードに内的時間記録を書き込むことが可能になっているのではと仮説を立てている。言われてみれば納得の可能性で、なかなか他の可能性を思いつくのは難しいだろう。
実験では、脳波を取りながら6枚の絵を順番に示すセッションを、異なる絵のパネルを使って6回行う。最後に2枚の絵を示してどちらを先に見たか聞いて、正解した時の脳波記録と、不正解の時の脳波記録を、γ波とΘ波が結合しているかどうかの観点から調べる。脳波では、写真を見た時のエピソードによる興奮と、その時にΘ波にγ波が結合したかどうかの解析を同時に行うことができる。
もちろん答えはイエスで、Θ波の時計に絵を見た経験によるγ波を結合させていることが示されているが、先に述べたようになぜこのデータを「イエス」と解釈できるか、恥ずかしならが理解しづらかった。
とはいえ、私にとってはΘ波が時計の代わりをしてくれているという結論は、目からウロコの納得の考え方だった。理解できなくとも、楽しめる論文がある良い例だ。