今日紹介するロックフェラー大学からの、論文はさらに複雑な、オキシトシンに対する反応の性差を説明しようとした研究で9月22日号のCellに掲載されている。タイトルは「A cortical circuit for sexually dimorphic oxytocin-dependent anxiety behaviors (オキシトシン依存性の不安行動の性差を説明する皮質回路)」だ。
この研究の目的は、オキシトシンにより、メスは求愛行動など社会性反応が高まる一方、オスでは不安を取り除く作用が強いという性差のメカニズムを説明することだ。そのため、オキシトシンに反応する細胞を光刺激で興奮させられるよう操作したマウスを作成している。このマウスでは、期待どおり光刺激でメスは社会性の高まり、オスは不安の軽減が見られる。
次に神経生理学的に、オキシトシン反応性神経の刺激は、皮質第2/3層と第5層の神経興奮を抑制することを明らかにしている。
次に分子生物学的探索から、オキシトシン刺激による遺伝子発現から、不安反応に関わることが知られているコルチコトロピン結合タンパク(CRHBP)の分泌が鍵となる分子であることを突き止めたあと、オキシトシン反応性神経と、それが支配する第2/3層神経細胞、及び第5層神経細胞のサーキットに関わる分子機構を、主に脳スライス培養法を用いて検討し、次の結論に至っている。
1) オキシトシン反応性の介在ニューロンは、第5層の社会性に関わる神経と、第2/3層のストレスによる不安反応に関わる神経に影響を持つ。
2) オキシトシン刺激はGABAを通して第5層の社会性反応を抑えるとともに、CRHBP分泌により第2/3層の不安反応を抑える。
3) メスはもともと不安行動に関わるコルチコトロピン受容体が低く、これを埋め合わせるためコルチコトロピン濃度が上昇しているため、この経路の阻害剤であるCRHBPの分泌が少々上昇しても不安反応を抑えるには至らない。従って、GABA反応だけが目立つ。
4) 一方オスではCRHの濃度変化に感受性が高くできており、オキシトシンによるCRHBPの分泌で不安を抑える反応が強く出る。
なぜオスでGABA反応が低下するかについては説明が不十分と思えるが、オキシトシンの機能を理解する上では極めて重要な貢献だと思う。
オキシトシンは社会性のホルモンとして、実際の臨床にも使われ始めている。ただ、これらは経験論的な研究が根拠となっており、今後これをより詳細なメカニズムに詰める必要がある。その意味では、オキシトシンの機能についての光遺伝学的研究はこれからも期待できる。」