これほど擬遺伝子が多いとどうしても配列だけで判断して擬遺伝子と断定してしまうが、突然変異が入っているからといって擬遺伝子としていいのかは問題だ。事実、嗅覚受容体として機能しなくとも、他の機能があるのではという指摘がこれまでも行われていた。
今日紹介するスイス・ローザンヌ大学からの論文は、ショウジョウバエの嗅覚受容体の中で、配列上どうしても擬遺伝子としてしか見えない遺伝子が、完全な機能を持っていることを示す研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Olfactory receptor pseudo-pseudogenes(嗅覚受容体の擬・擬遺伝子)」だ。
実際にはこのpseudo-pseudogenesというタイトルに惹かれて、「擬・擬遺伝子とは何か?」と読み始めた。研究では、Ir75aと呼ばれる酢酸を認識する嗅覚受容体について調べている。酢酸に対する反応が低いショウジョウバエの種類のIr75a遺伝子を調べると期待通り遺伝子の中間にストップコドンが入っている。ところが、PCRで発現遺伝子を見ると、完全なIr75a遺伝子が検出されてしまった。すなわち、ゲノムでは擬遺伝子として分類できるものが、そうではなかったということになる。実際、この遺伝子を取り出して、ショウジョウバエで発現させると、ストップコドンが入っているのに発現が見られる。しかも、神経だけで発現が見られる。結局、ストップコドンを上手く飛ばして転写が進んで、機能的遺伝子が発現することがわかった。
様々な遺伝子を作ってなぜストップコドンを無視できるのか調べ、ストップコドンの下流にある配列が認識されるとストップコドンが無視できることを明らかにしている。
最後に同じような転写のされ方をする嗅覚受容体遺伝子が他にも存在することを示して、この方法で少し反応が変化した嗅覚受容体を積極的に生成しているのではないかと示唆している。
おそらくtRNAがmRNA上でアッセンブルする際の制御にりストップコドンが無視できると考えられるが、分子を完全に同定するには至っていない。このため、現象論的で終わっているのだが、しかしこのような様式が高等動物でも存在するという認識は、今後の遺伝子分類にとって重要だと思う。
最後にわかりやすく擬・擬遺伝子を定義するなら、擬遺伝子を装う遺伝子とするのが良さそうだ。