AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 11月10日:X染色体不活化のシナリオ(10月28日号Science掲載論文)

11月10日:X染色体不活化のシナリオ(10月28日号Science掲載論文)

2016年11月10日
SNSシェア
  男女の性でX染色体の数は、男性1本に対し、女性2本と数が違う。一見何の問題もないように思うが、このまま何もしないで遺伝子が発現すると、X染色体上に存在する遺伝子の発現量が女性では常に男性の2倍になってしまう。これがいかに重大な問題かは、ダウン症で染色体が正常の1.5倍になるだけで様々な異常が起こることから理解できる。このため、X染色体上の遺伝子発現をそれぞれの性で別々に制御する仕組みが発達している。女性だけでX染色体の遺伝子発現を半分に低下させる種もあるし、逆に男性でX染色体の遺伝子を倍に強める転写制御を行う種もあり、その仕組みは多様だ。
  私たち哺乳動物では、女性のX染色体の一本だけでクロマチン構造を変化させ、遺伝子の発現を抑えてしまう方法が取られている。この過程では、まずXistと呼ばれる長いRNAの転写が始まったX染色体だけが、このXistに覆われ、そこにoff型の染色体構造を形成する様々なタンパク質がリクルートされることで、X染色体全体が不活化される。
   このメカニズムの理解は急速に進んでいるが、今日紹介するカリフォルニア工科大学からの論文は、X染色体全体にXistが広がる過程にX染色体が核膜にアンカーされることが重要であることを示した研究で10月28日号Scienceに掲載された。タイトルはXist recruits the X chromosome to the nuclear lamina to enable chromosome-wide silencing (XistはX染色体を核膜近くの核ラミナにリクルートすることで染色体全体の遺伝子発現の不活化を可能にしている)」だ。
   核ラミナとは核膜直下に形成されたラミンというタンパク質が濃縮された構造で、この近くに存在する染色体では遺伝子の転写が不活化されることが知られている(JT生命誌研究館に連載中の「進化研究を覗く」参照http://www.brh.co.jp/communication/shinka/2015/post_000014.html)。
   この研究ではXist結合タンパクの中に核ラミナ構造分子ラミンBが結合しているという発見から、X染色体が核ラミナ構造に取り込まれることが一本だけのX染色体が不活化できる鍵になるのではと考え、XistとラミンBの結合と、X染色体上のクロマチン変化の過程を詳しく比べている。
   実験の詳細を省いて、この研究から明らかになったシナリオをまとめると次のようになる。
1) Xistは転写されると、近くにある転写の低い場所をカバーし始める。
2) こうしてXistと結合したX染色体部分は、XistのラミンB結合により、核ラミナにアンカーされる。
3) これにより、X染色体を核内の転写の高い場所から隔離し、またその動きを制限する。
4) こうしてアンカーされた部位を中心に徐々に転写活性の高いX染色体部分も核ラミナに取り込まれ、Xistが転写されている部位の近くに引きずりこまれることで、Xistにより覆われる。
5) Xistに覆われた染色体では、クロマチンをoff型に変える分子と結合し、遺伝子転写を抑える。
   要するに、XistがラミンBに結合することで、核ラミナという場所を利用してX染色体を徐々にXistが作られている場所に寄せて、最終的に全体をXistで覆い、クロマチンをoff型にかえることでX染色体全体の遺伝子発現を抑えるというシナリオだ。
   これまでXistがX染色体全体に広がると言われても、実際どのように片方のX染色体だけに広がるのか疑問だったが、この点についてはよく理解できた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。