今日紹介するハーバード大学からの論文はげっ歯類の縦縞の謎が残っていることを私に思い起こさせ、完全ではないが、納得のいく説明をしてくれた研究で11月2日のNatureに掲載された。タイトルは「Developmental mechanisms of stripe patterns in rodents(げっ歯類の縦縞の発生メカニズム)」だ。
この研究では背中に4本の黒いストライプの走るアフリカ縞ネズミを材料に研究を行っている。それぞれの縞と周りの毛根の色素を調べると、当然のことながら縞上の毛ほど色素を多く含んでいる。また、色素細胞が毛根に取り込まれる胎児期にすでにこの縞をはっきりと見ることができる。
この色素の欠損が、色素細胞の欠損によるのかc-Kitに対する抗体を用いて染めると、色素細胞自体は縞以外にある毛根にも同じ数だけ存在している。しかし、色素細胞分化のマスター遺伝子であるMITFの発現が、縞以外では低下していることがわかった。すなわち、縞の無い領域では、色素細胞幹細胞が毛根に存在しても、分化できないことがわかった。
次に、黒い縞部分と、その周りの遺伝子発現を比べ、色の薄い場所で発現の高い遺伝子を探すと、AslpとAlx3の二種類が挙がってきた。Alx3は間質細胞に発現している転写因子であることから、以後この分子に注目して研究を進めている。
期待通り、Alxは縞のできる発生時期に、縞のない皮膚のケラチノサイトとメラノサイトの両方に発現している。次に、マウス培養色素細胞、およびマウス胎児内にAlx3遺伝子を持つレンチウイルスを感染させ、Alx3の色素細胞への影響を調べると、MITFのプロモーターに結合することでその発現を直接抑制して、その結果色素の産生が低下することを明らかにしている。
以上の実験から、色素細胞でのAlx3の発現は縞上の毛根で抑制されており、Mitfが正常に発現して色素細胞分化が進み色素ができるが、それ以外の場所ではAlx3が発現して、色素細胞の分化が抑制され、色の薄い毛ができるというシナリオだ。
残念ながら、特定の場所(縞ができる場所)だけで、Alx3の発現が抑えられているメカニズムについては明らかにできていない。しかし、縦縞の場所が決まってからの分子過程については、私たちが考えたシナリオの枠内で理解ができたと思う。
まががりなりにも色素細胞分化については専門家だと思っていたが、思いもかけないメカニズムでできる毛色のパターンがあることがわかり、動物の多様性にまた驚嘆した。