同じ問題を腸内細菌叢研究に見ることができる。次世代シークエンサーを使って腸内細菌を網羅的に解析することが可能になったが、複雑な全体の変化を示されても理解が深まったという気がほとんどしない。一方、腸内の細菌が完全に把握できているgnotobioticな系で行われた研究は、免疫にしても、栄養にしてもよく理解できる。この状況を見ると、急速に広がった細菌叢のメタアナリシスブームは、gnotobioticなボトムアップの研究の進展が追いつくまで、結局理解できないまま残るような気がする。
このことを示す典型的な論文がルクセンブルグ大学と、ミシガン大学の共同研究として11月17日号のCellに掲載された。タイトルは「A dietary fiber-deprived gut microbiota degrades the colonic mucus barrier and enhances pathogen susceptibility (食物繊維が欠乏すると腸内細菌が大腸粘膜バリアーを分解し病原菌に対する感受性をあげる)」だ。
この研究で行われた研究は、基本的に、無菌マウスに17種類の完全にゲノムが解読された細菌を移植したgnotobiotic系を作り、このマウスに食物繊維の含まれない餌を与えるとどうなるかを調べている。ただ重要なのは、それぞれの菌を様々な糖鎖とともに試験管内で培養したデータもちゃんと採っている。
その上で、食物繊維が欠乏すると、
1)どの細菌が増えるのか、
2)その結果、何が起こるのか、
3)この変化が病気に関わるかを調べている。
17種類に細菌が減らされると私たちの頭の中でも十分データを処理できる。多くの実験が行われているので、かいつまんで結論だけをまとめておこう。
1) まず、食物繊維を減らすと、多糖類を分解して栄養にする細菌の比率は急速に低下する。(完全に納得)
2) これに代わって、腸から分泌される粘液を分解する能力を持つ菌が増える。(これも納得)
3) 遺伝子発現からも、腸内細菌叢全体で粘液を分解する酵素の発現が上昇していることが確認できる。
4) この結果、当然腸内の粘液が分解される。問題は、粘液に腸上皮の保護作用があることで、この保護作用が無くなることで、病原性の高いバクテリアが直接上皮に結合する。(納得)
5) これを確認するため、Citrobacter rodentiumと呼ばれるバクテリアを加えて実験すると、多くのバクテリアが上皮に直接接触して腸内から洗い流されない。(納得) 6) この結果、腸上皮が侵食され、潰瘍が形成される。(納得)
以上がシナリオだ。
これまでメタアナリシスだけで同じ問題を扱った論文を読んだが、それと比べるとデータもわかりやすく、直感的に納得できる。
もちろん、gnotobioticな系だけで実際の現象を理解できることはない。このボトムからの結果を、腸内細菌叢全体の変化と対応させていく努力が必要だろう。
食品やサプリメントの開発も、すべてこの基盤の上に進める必要がある。決して、複雑な話にしてから都合のいい結果を選ぶようなことは慎むべきだ。