今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、腸内細菌叢を構成する細菌に特異的に見られるペプチド合成系に着目し、細菌叢とホストの新しい関係の可能性を調べた研究で1月26日号のCellに掲載予定だ。タイトルは「Discovery of reactive microbiota-derived metabolites that inhibit host proteases(ホストのプロテアーゼを阻害する腸内細菌叢由来の代謝物の発見)」だ。
この研究は、リボゾームとは無関係にアミノ酸を結合させて小さなペプチドを合成する細菌の能力に最初から焦点をあてて研究を行っている。もともとアミノグリコシル系の抗生物質はバクテリアの持つこの能力を利用したものだが、この研究ではこのグループがこれまで発見してきた腸内細菌に特に発現が多いペプチド合成系に焦点をあて、バクテリアゲノムデータベースを探索し、主に腸内に生息する嫌気性菌ゲノムに存在し、他の場所にはほとんど見当たらないペプチド合成酵素遺伝子を47クラスター発見している。
次にこのクラスターを、遺伝子操作がしやすい大腸菌や枯草菌に組み込んで培養し、上清中に出てくるペプチドを質量分析器で解析し、ピラジノンやN-acylated dipeptide aldehydeなどのペプチドを合成できる機能的クラスターを7種類同定している。
次に、試験管内で合成できるペプチドが、実際の腸内に存在する細菌が合成しているのか菌を培養して調べているが、一部の細菌で確かに合成が確認されているが、合成が見られる培地を見つけるのは困難で、この点については未解決のまま残されたと言える。ただ、遺伝子の配列は9割以上の腸内細菌ゲノムに見られ、腸内でRNAに転写されていることも確認されているので、今後新しいペプチドの発見を含む進展が期待される。
最後に、今回特定したペプチドの一つPhe-Phe-Hが抗原をMHCにロードする際に重要な働きをするカテプシンを強く抑制することができることを示している。
以上の結果と、この合成系が腸内細菌に特に強く発現しているという事実から、ホスト免疫系とうまく付き合う一つの進化として進化したのではないかと結論している。
この研究は、これまでのバクテリアの代謝物や中間体がたまたまホストの機能に影響があったという関係を超えて、ホストの生体機能を外から調節するためにバクテリアが進化させた代謝物が存在し、ホスト〜バクテリアの関係を考えるときに、考えなければならないことを示している。その意味で、ホストとバクテリアの本当の共生関係を探る新しい分野であると言っていいだろう。すなわち、バクテリアもホストに合わせて進化している。
加えて、こうして発見された様々な代謝物は、研究材料としても有用で、一石二鳥の分野だと思う。